概要
前回の続き。
サマリと感想を書く。
サマリ
- 弘始2年、戴国 (タイコク) でのこと。泰麒くんと、 泰王 (漢字が変わるからややこしい) 驍宗 (ギョウソウ) さんのお話。
- 泰麒くん: 2巻と0巻で登場した胎果 (タイカ) の麒麟。悪漢に襲われて鳴蝕 (メイショク; 天変地異を起こして十二国と日本を無理やり繋げること) を起こして日本へぶっ飛んで記憶を失う。
- 驍宗さん: 飄風 (ヒョウフウ; 最初の昇山で出た王様のこと) の泰王。登極から半年で文州の乱が発生し、その争いが、驍宗さんゆかりの地である轍囲 (テツイ) が争いに巻き込まれたんで、王様自ら戦地に赴く。が、それは仕組まれていたものらしく、何者かに襲われて行方不明に。かくして王様と麒麟を同時に失った戴国は荒れに荒れる。
- 阿選 (アセン): 戴国の禁軍右軍将軍。驍宗さん無き首都鴻基 (コウマ) で偽王として立つ。まるで国土を破壊するのが目的であるかのような暴虐っぷりで、しかも謎のマインドコントロールが国中に発生していて、反乱も起こらない始末。
- 李斎 (リサイ): 戴国の将軍。そんな暴虐っぷりが6年続いたので、這々の体で慶国 (ケイコク) の我らが景王、陽子さんへ助けを求める。
- 陽子さん: 我らが景王。慶国は国歴3年。陽子さんは戴国を助けたいが、兵を送ることは出来ない。なぜなら覿面の罪があるからだ。
- 覿面の罪: 天綱に定められた絶対ルールを破ると、王様と麒麟が一気に死ぬシステムのこと。他国に兵を送ることがこれに値するのだ。そんなオカルト染みたルールが天綱にはいくつもあるが、簡潔な文言で書かれているので、がんばって解釈して碧霞玄君の玉葉さんに相談しつつ守る必要がある。
- 天の許す限度の中で戴国に何をしてやれるだろうか会議: 十二国では、 “国同士が協力して何かを行うということをしない” ……のだが、陽子さんはその現状を変えたいと申し出る。それは決して戴国のためだけではなく、自身の慶国のためでもある。自分が斃れたとき、民が他国によって救済される例を作りたいのだ。みんなは感心し、まずは日本へぶっ飛んでしまった泰麒くんの捜索隊を結成する。全7国による、麒麟たちによる麒麟捜索隊だ。
- かくして日本で泰麒くんは発見される。が、麒麟の角と記憶をを失った泰麒くんを十二国へ連れ戻すのは大変だったけれども、まあなんとか記憶は戻る。
- 泰麒くんと李斎は、国のため、戴国へ戻る。戦う力を何も持っていないが、その必要がある。なぜなら…… “そもそも自らの手で支えることのできるものを我と呼ぶのではないんでしょうか” “ここで戴を支えることができなければ … 僕たちは永遠に戴を我が国と呼ぶ資格を失います” ……だからだ。
所感
- 読みながら、今回の肝はこれら↓かな、と思っていた。
- 戴国を席巻しているマインドコントロールの正体は?
- 覿面の罪、ひいては天綱のシステムの正体は?
- ……が、今回の巻では、これらの問題提起がされただけで、解答が提示されることはなかったね。代わりに、陽子さんによって、協力した過去を持たない十二国が、協力する、という流れが生まれた。
- この “国同士が協力することがない” という歴史も、たぶん天綱のせいだよね。天綱によって、他国の侵略や、国土の侵害が禁じられていることが、国家間不干渉の歴史を作ったのだろう。
- これから、天綱の正体、天の正体、十二国という世界の正体へ、話が進んでいくのかな? それは『戦う司書』シリーズのそれと似た展開だ。
- つまり、物語の前半では、ある集団同士 (十二国では、国同士) の関係性を描く。読者は、国同士のやり取りを描く物語なのだな、と理解する。が、後半では、その歴史の根幹、世界の成り立ちへと、話がプレイアウトしていく。そういうタイプの物語だった。……十二国記も、ひょっとしたら、そういうタイプの物語なのかな?
- ああ、実在がはっきりしなかった西王母が、物理的に存在していた、という展開も、我らが山形石雄先生の作品を想起させる。『戦う司書』でも『六花の勇者』でも、伝説的な存在は、基本的に実在している (てか現存している) んだ。
- 4巻で陽子さんの仲間となった、祥瓊 (ショウケイ)、桓魋 (カンタイ)、大木鈴 (オオキスズ)、虎嘯 (コショウ) も再登場して楽しめた。
- 李斎さんの “器量” に関する考え方が良いね。器量とは、あることに対して考えが及ぶ、及ばない以前に、考えるきっかけを見出す能力だ。誰だって、考える材料、きっかけがあれば、ちゃんと考えることができる。でも、多くの人は、そのきっかけを逃し続ける。泰王の驍宗さんはそれを逃さない。
- この考え方には思わず膝を打ったね。そのきっかけを目敏く捉えるために必要なのが、教養というものなんじゃないかなあ、と個人的には思った。
- 戴国の冬官長琅燦 (ろうさん) は、キャラがクッソ濃かったのにちょい役だった。多分これはのちの巻で活躍してくるな?
- 戴国の秋官長花影 (かえい) は、人間味のあるキャラだったな。自分の性格とは合わない秋官 (刑罰担当) の職務に悩み、人道を外れたことを提案する李斎さんに怒り、驍宗さんの器に感服して涙を流す人。
- 驍宗さんによると、人を裁き、罰することは歯止めが利かなくなるもの。だから、向いていない者こそ秋官に向いているのだ。