概要

前回の続き……ではなく、これは十二国記のスピンオフらしいぞ。サマリと感想を書く。

 

サマリ

  1. 広瀬くんが、母校で教育実習を始める。担当クラスで、広瀬くんは高里くんに目を留める。 (えぇー?! 泰麒くんじゃん何してんの?)
  2. 高里くんに絡んだ生徒たちが怪我をしていく、不可思議な現象を目の当たりにする。 (明らかに使令の仕業やろ!)
  3. その現象は “高里の祟り” と言われていて、高里くんが過去に “神隠し” に遭ったことも知る。 (知ってるぅー! 『風の海 迷宮の岸』で読んだ!)
  4. “高里の祟り” の解明が進む。高里くん本人が怒ったかどうかは無関係で、害を与えた者が報復を受ける。 (なんで泰麒くんは使令を見ることができないんだそもそも?)
  5. 高里くんが学校で迫害されたので、広瀬くんは高里くんを泊めてあげることにする。
  6. 高里くんの守護者が7人の迫害者を残虐に殺してしまう。
  7. 一連の事件によって、人間関係がこじれ始める。
  8. 広瀬くんの教育実習が終わる。結構生徒たちには好かれていたみたい。広瀬くんと高里くんが、南米ロライマ山で隠遁する妄想で盛り上がる。
  9. 高里くんの守護者が、高里くんの肉親すら殺してしまう。あとウザいマスコミも殺す。
  10. 広瀬くんは、高里くんが無意識に守護者へ指示して周囲の人々を殺してまわっているのでは? と推測する。しかしそれは間違っていて、謝る。高里くんが “十二王” という言葉を思い出す。
  11. 高里くんが、自身が麒麟であることを思い出し、迎えに応じて帰っていく。あとに残された広瀬くんは、 “山に……ってください” の言葉に従い失踪した。

 

所感

  • 面白かった!! “十二国記” 未読では、この話はホラーだと思うんだけれど、 “十二国記” 既読では、あくまでファンタジーになるんだよな。その見え方の違いが面白かった。
  • 冒頭から泰麒くんが出てきたので、 “何してんのきみ?! なんで戻ってきてんの?” と混乱しちゃった。どうも、『風の海 迷宮の岸』と本作の間に、なにか事件があって、泰麒くんは麒麟の角を失って、記憶を失っちゃったということらしいが。
  • しかし、めちゃくちゃ殺したな〜。本作では、200, 300人ほどの人的被害が蓬莱側で出たのだが、 “まあ仕方ないよね” という扱いであることが清々しい。そう、 “十二国記” の世界観では、重要度において “十二国” が明確に優越しているのだ。
  • “故国喪失者”。この世界とは別に、自分の本当の居場所があるが、そこへ帰る手段がない、という人のことを指す、広瀬くんの造語。わかるぅ〜。子どものころって、自分オリジナルの概念と言葉を作って、自分を慰めるよね。ぼくもやったよ。
  • ちと話はズレるが、そんなぼくを指して、ぼくの恩人のひとりは、 “きみは言葉に囚われすぎる” と窘めた。当時はマジで理解不能だった。いまならわかるよ。あのときのぼくは、耳障りの良い言葉を見つけて、 “自分はコレなのだ” と自己を構築していた。言い換えると、 “言葉 → 自分” の方向で、自分の人格を決めつけていたんだよな。でも、言葉と自分の関係において正なのは自分のほうだ。だから本来は “自分 → 言葉” の方向で、自分の人格をいろいろな言葉で表現するのが正しい。うむ。ダメだうまく言えん。
  • “来訪者恐怖症”。 “故国喪失者” と同じで、広瀬くんが自分を表すために用意した言葉。広瀬くんは、自分を “周囲の人々と自分は異なる存在だ” と思い込むために、自分専用の特別な言葉を用意する傾向にあるらしい。
  • ちなみにこれはスピリチュアルにハマる人と似た傾向だ。スピリチュアルにハマる人というのは、努力と積み重ねを怠ってきて、気づけば周囲の人々に差をつけられて、成功体験が希薄で、劣等感が強い人だ。そういう人が周囲の人々に勝つためには、なにか特別なブレイクスルーが必要だ。それが宗教だったり、超能力だったり、スピリチュアルなわけだ。そういう、努力なしに手に入る資格を使うことでのみ、周囲の “普通に積み重ねた人々” に優越できる。だから人には、健全な挫折と成功体験が必要なんだ。
  • そんな広瀬くんは、 “明らかに別世界の人間” である高里くんを、自分の仲間であると定義したがる。それによって、自分も “明らかに別世界の人間” であることになったらいいな、という希望を持っているわけだ。成功者の取り巻きと同じ発想だ。ちょっとイタいけど、やはりこれも子どものころに通過しておくと、人格形成の肥やしになる経験だろう。はい、ぼくも耳が痛いよ。
  • 広瀬くんは、自分がうまく生きていけないのは、ここが自分の世界ではないからと思っている。しかし、そうではなくて、うまくやれないのは、分かってくれない奴らは消えちまえと、自分から理解を拒んでいるせいだ。人間関係はお互い様だ。分かろうとすることで、分かってもらえるものだ。
  • でも、広瀬くんには、後藤さんという、きちんとしたアドバイスをくれる大人がいるから幸運だよね。後藤さんは、 “俺たちを拒まないでくれ” という言葉をくれる。強情な広瀬くんに対する、責めつつも下手に出てくれている、バランスのいい言葉だよね。
  • ……で、最終的には拒みっぱなしでロライマ山へ失踪しちゃうことには、開いた口が塞がらなかったけれど。え? そういうオチにするの?

 

わからなかった言葉

  • パビリオン: 展示館のこと。
  • 絹雲: けんうん。高空にほうきで掃いたようにかかる白雲のこと。
  • 教生: 教育実習をする人のこと。
  • 仰臥: ぎょうが。仰向けに寝ること。
  • “部屋を出しな、本を見ていいですか、と訊いてきた”: “出しな” の意味がわからなかったんだ。ググってみたら、 “出かけようとするとき” “出ぎわ” という意味らしいな。最初、 “出るやいなや” の誤植かと思ったよ。似たような用法で “来しな” もあるらしい。
  • 平仄が合う: ひょうそくがあう。辻褄が合う。クッソー。これ、『黒牢城』のときに調べたのに、今回思い出せなかったー。『黒牢城』の難しい熟語は、眺めていると知的好奇心が満たされるから、みんな眺めてみてくれよな。