概要
前回の続き。
前回は文州の乱から始まる戴国の大事件を描いていた。続きはどうなるのかと思ったけれど、これは閑話休題の短編集だった! まあ、軽くサマリと感想を書く。
サマリ
冬栄 (トウエイ)
- 戴国 (タイコク) から漣国 (レンコク) の使節のお話。
- 漣国の首都重嶺にて、自分が何の役にも立てていないことを悩む泰麒くんは、廉王の世卓 (セイタク) さんに励ましてもらう。
- “それだけ?” “それだけが、とても大きいんですよ。 … ひょっとしたら、それこそが麒麟のお仕事なんじゃないかな”
乗月 (ジョウゲツ)
- 祥瓊 (ショウケイ) ちゃんのパパ、仲韃 (チュウタツ) を討った月渓 (ゲッケイ) さんが、苦悩しつつ仮朝の仮王に就くことを決心するまでのお話。
- 月渓さんが玉座に就くことを嫌がるのは、自らが大悪人であるからだと思っていた。でもそれは違う。
- 仲韃はまっすぐな人格で、贅沢をせず、贈り物はいつも文房四宝だった。月渓さんをはじめとするかつての家臣は、みんな彼のことを慕っていた。そんな彼を、民のためにとはいえ弑したことを月渓さんは悲しんでおり、彼から玉座を奪うような真似をしたくなかったのだ。ちなみに后妃の佳花 (カカ) さんはマジの悪辣女だった模様。
- それを自覚すると、彼は民のため、仮王を引き受ける。
- “后妃は悪辣だったが、許せぬ、とは思わなかった”
書簡
- 我らが景王の陽子さんと、大親友の楽俊が文通しているお話。
- 楽俊は、雁国にあってもなお半獣であることで苦労している一方、鳴賢 (メイケン) をはじめとして友人には恵まれ、允許 (インキョ; 大学の単位のことっぽい) 取得に向けて励んでいた。
- 陽子さんは、言わずもがな、新しい王朝においていろいろ苦労していた。
- “お互いに空元気。そんなの、分かってるよ。お互いにそうなんだ。……だからそれでいいんだよ。”
華胥 (カショ)
- 評判の悪かった前王のあと、才国 (サイコク) の新王として選ばれたのが砥尚 (シショウ) さんだ。
- が、麒麟が失道した。一体何が間違っていたのか? 砥尚さんも、冢宰の栄祝さんも、官僚の朱夏さんも、分からない。だって、砥尚さんの政治は、前の王様の悪政とは全然違うのだ!
- でも彼らは、前の王様の政治を否定することでしか、自分たちの理想を語れなかった。彼らはその確信を疑うことがなかった。
- “そちらじゃない、こちらだと言ってあげて初めて、正すことになるのじゃない?” そう冷静に指摘する黄姑 (コウコ) さんこそが、次の采王だ。
- ちなみに宝重の華胥華朶 (カショクカダ) の機能をみんなが誤解していることが悶着の原因になったのだが……これまで誰も機能を検証しなかったのかよ。しておけ、それくらい。
帰山 (キザン)
- 柳国 (リュウコク) は法治体制がよくできているんだが、傾きつつあるらしい。
所感
- 文房四宝って言葉を初めて知ったな。中国の言葉で、筆と、墨と、硯、紙のことを指すんだって。
- 現代で言うと、キーボード、マウス、オフィスチェア、モニターのことだね。
- 十二国記はファンタジーというよりも教訓のある故事みたいな風情のある物語だ。短編ともなると、教訓話・感がいっそう強まるな。
- なお、 “華胥の幽夢” ならぬ “華胥の夢” は、中国の実在の故事らしい。内容は、本書の “華胥” に登場した華胥華朶がもたらす (とされていた) 夢と同様だ。