概要
すげー良かった。内容のすべてが実生活に活用できる知識で、サマリを書くのも楽しめた。まとめるのに時間がかかっちゃったけれど、そのぶん内容を頭へきちんと収納できたような気がして満足だよ。サマリと感想を書く。
サマリ
- 多くの研究により、運動が脳の可塑性を高め、物理的に成長させ、機能を向上させることがわかっている。
- 可塑性: 新しい脳細胞や血管が形成され、脳の領域同士の結合が強化されるなど、脳が物理的に成長する性質のこと。
- その結果、運動は抗ストレス効果や集中力向上、 ADHD の症状改善、抗鬱作用、記憶力や学力の向上につながることがある。
- この本は、多数の研究論文と実験結果をもとに、運動が脳に与える良い影響のメカニズムを解説してくれる。
- 参考文献のリストはこちらの URL にある。 https://www.sunmark.co.jp/book_files/pdf/undounou.pdf
まずは図の上から4つ。運動は脳全体を成長させてくれるのだけど、特にこのへんを成長させる。
- 灰白質: 認知機能。並行作業、短期記憶、集中力、決断力などのこと。これは算数、読解、問題解決の成績につながる。
- 白質: 脳の内部のことで、軸索の塊だ。軸索はミエリンという電気信号の絶縁体でくるまれているんだって。
- 前頭葉: 認知制御。“高次の思考によって衝動を抑え込む働き” のこと。理性とか集中力のことだ。
- 有名な “マシュマロ実験” により、この部位の発達が早い子供は、目先の誘惑に惑わされず我慢ができ、将来的にも成功しやすいと明らかになった。
- 心理学のウォルター・ミシェルの言うところの “クール・システム”、ノーベル賞受賞者のダニエル・カーネマンの言うところの “システム2” である。 (カッケェ)
- 海馬: 運動でもっとも成長する脳の部位。記憶力を司る領域だが、 BDNF や GABA を作る役割もある。
- BDNF (Brain-Derived Neurotrophic Factor, 脳由来神経栄養因子): 脳細胞を保護し、成長を促し、つながりを強化し、可塑性を上げる。最高の物質だ。ただ、肉体のコンディションが良好なときにたくさん作られるので、運動して体力をつけよう。
- GABA (ガンマアミノ酪酸): 脳の活動を沈静化する。その働きから、 “ニューロンの乳母” という異称をもつ。
次に図の真ん中の、扁桃体からスタートする HPA 系について。
- HPA 系: まずはストレスが発生する仕組みからまとめる。
- 刺激があると、扁桃体が HPA 系へシグナルを送る。
- 視床下部 (Hypothalamus) → 下垂体 (Pituitary) → 副腎 (Adrenal gland) の順番にホルモンを送り、最後にストレスホルモン、コルチゾールを生む。
- コルチゾールは肉体を “闘争か逃走か” 状態にするが、その状態が長く続くと海馬とか前頭葉の細胞を殺していく。
- なかなか物騒なメカニズム↑だけど、運動をすると HPA 系が鍛えられて、コルチゾールが増えにくく減りやすいようになる。
- また、上述したように、海馬が作る GABA も HPA 系を鎮静してくれるし、 BDNF は脳細胞を保護してくれる。やはり海馬さんがナンバーワンだよ。
お次は側坐核からスタートする報酬系について。
- 側坐核: 運動による刺激を受けてドーパミンを分泌する。
- ドーパミン: 受容体と反応することで、脳内で “今やっていることは続ける価値があるぞ!” と叫びまくる。これにより我々は物事に集中できる。
- 視床: これにより↑、っていうか、ドーパミンの働きで視床が働くみたい。視床は脳内の情報をふるいにかけ、必要な情報だけをよりわける。これが集中力の仕組みだ。集中しているとき周りの音が聞こえなくなるのはコイツのおかげ。
図の一番下の、神経伝達物質たち。どちらも運動で増加することが分かっている。
- セロトニン: 幸せホルモンだ。
- ノルアドレナリン: 注意力とかに関わる。
ここまで運動、運動と言ってきたが、数々の研究論文によって、もっとも効果のある運動強度は判明している。
- とくに効果のある運動は、心拍数がある程度上がるレベルの、45分以上の有酸素運動を週に3回、定期的に続けること。ウォーキングも良いがランニングがもっとも効果的だ。
- ある程度というのは、20〜30代では140bpm, 40〜50代では130bpm, 60代以上では120bpm だ。
- 認知機能を試す試験、 MIST (モントリオール・イメージング・ストレス・タスク) のようなストレス耐性を測る試験、エリクセン・フランカー課題のような集中力を測定する試験……などを行った、数多くの実験の結果が、そのくらいの運動を行っている人の脳機能がもっとも高いことを示した。
- ただ、これ↑はあくまで理想的なコンディションを保つためのメニューである。たとえ数分〜数十分のウォーキングでも効果はあり、直後の1時間〜数時間の間、前述したような試験の点数が上がることが分かっている。
- しかし運動が本当に効果を発揮するのは、継続的にそれが行われたときだ。理想的には上述したような強度の運動を継続的に行うことだけど、どんな運動でも、 “心拍数の上がる” “有酸素運動を” “頻繁に” という条件を満たしておれば大丈夫。
そして、運動がどのような仕組みで各問題を解消するのかまとめておこう。
- 抗ストレス: ストレスの原因は HPA 系、そしてコルチゾールだ。運動で HPA 系を鍛えることで、コルチゾールが増えにくく減りやすい身体ができあがる。また、コルチゾールが破壊する海馬や前頭葉の細胞を運動は成長させる。そして海馬が生産する BDNF が、脳細胞を保護する。これが抗ストレスの仕組みだ。
- 集中力: 集中力は前頭葉の認知制御と、報酬系の働きの結果である。運動は前頭葉を成長させ、報酬系を活性化させる。これが集中力向上の仕組みだ。
- 抗鬱: 鬱の原因は、セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミン、 BDNF の欠乏が原因とされている。運動はこれらの物質の分泌を増やす。これが抗鬱の仕組みだ。
- 記憶力や学力: 記憶や学力には、海馬、前頭葉の認知制御、灰白質の認知機能が関係している。運動はこれらの部位を成長させるので、成績がアップする。これはシンプルな話だ。
その他、面白かったとこ。
- 抗鬱剤は脳内セロトニンをキープすることで抗鬱を実現するが、運動の効果には及ばない。抗鬱剤服用グループの1/3には副作用が発生し、再発率は38%。一方、運動グループは副作用が無く、再発率は8%。
- なぜこのことが広く知られていないのか? 製薬会社は莫大な予算で薬をマーケティングするが、運動するように促す製薬会社は存在しないためだ。
- 視床は脳の雑音を消しており、その音は脳細胞の活動音だと思われる。
- 海馬は25歳を超えると年に0.5%ずつ縮小する。コルチゾールにさらされるとその速度が加速する。
- 鬱病を患った40代女性が、運動で治療を目指し、全般的に健康になり、不眠や短期記憶、集中力が改善した実例の記述。彼女がなにより喜びを感じたのは自分で状況を変えられたこと。
- 緑さんも同じ経験があるため、共感した。この節は描写が丁寧でわかりみが深かった。
- フィンランド、日本、南アメリカの研究によると、定期的に運動する人は神経質、攻撃的な人はほとんどおらず、大部分が社交的であることが分かった。
- 運動を続けるモチベーションになる研究結果である。抗鬱や抗ストレスである人は、そうひねくれないだろう。
感想
こんなに楽しめる本、あるか? 10年以上ランニングを続けてきている緑さんのような奴にとって、これほど励まされる読書があろうか。
これを読んだあとは、習慣のランニングをしている間、脳の中にいるタツノオトシゴみたいなヤツ (海馬) を想像するようになったよ。自分は今、このカワイイ奴に栄養をやっているんだ、って意識しながら走るのだ。しっかり成長して、 BDNF と GABA を製造してくれよな。
そして走り終わって心拍数を下げながら、コルチゾールがじわじわ減っていくのを想像して、肉体を鍛えるのと同時に HPA 系をトレーニングするのを楽しむのである。こんなに実生活に応用できる読書、そうないぞ。
みろりHPでアンデシュ・ハンセンさんの読書感想文を書くのは2度目だな。
『スマホ脳』をとても楽しめたから、今回の『運動脳』も期待していたのだけど、見事に応えてくれた。『スマホ脳』は、我々の身体の仕組みが現代社会と合っていないこと、どう合っていないのかを解説してくれた。 “じゃあどうするか” は割と二の次だった気がする。『運動脳』は “じゃあどうするか” をみっっちり教えてくれたな。スバラシイ。