概要
2021年の直木三十五賞、受賞作のひとつである米澤穂信『黒牢城』を読んだよ。親愛なるルームメイトが米澤穂信好きなので、このあとはそのままそちらへ回す予定。サマリと感想を書く。
サマリ
- まんま、1578年の有岡城の戦いがベースになっているお話。
- これは、摂津守 (せっつのかみ) 荒木村重さんが、織田信長への謀反を起こした戦いだ。
- 戦略としては、要害である有岡城に籠城し、味方である毛利軍が来るのを待ち、織田軍を挟み撃ちにしてやっつけよう! というもの。
- そんな籠城中、殺人事件とかがちょいちょい発生する。荒木村重さんは冷静で賢い方なんだが、どうもこれらの難問には及ばない。そこで、地下に幽閉してある黒田官兵衛さんの出番だ。めっちゃ頭いいので相談しにいこうぜ!
- しかし、一見ワトソン役に見える村重さんにも謎があるぞ。あんまり人質を殺さないのだ (この時代、人質を殺すのが通常であるようなタイミングがある)。
- かように “世の習いにもなきこと” をすると、 “因果がめぐる” ぞ……と黒田官兵衛さんは不吉な予言をする。そう、歴史に覚えのある人であれば知っているように、有岡城の戦いはうまくいかないのだ……。
感想
- 歴史小説かと思ったら突然ミステリが始まって、 “突然米澤穂信始まった” と目を剥くのが面白い作品だった。
- 好きなとこをノートしとく↓
- 黒田官兵衛さん: 世の習いにもなきことをなされば因果が巡りましょうぞ
- (村重さん): 余人が取次も請わず奥の間に来るのは無作法である。しかし、自念もそれだけ取り乱しているのだろう、無理もないことよと思い直す ← とにかく村重さんは懐が深い。
- 村重さん: 不心得じゃ。武具はよきものを揃えよ。よしんば間に合わぬとしても、鑓蔵から三間鑓なりと持ち出すぐらいの才覚はあって然るべきぞ。 ← でも仕事ができない人には厳しい。
- (地の文): 庭はいまだ手がつけられていない。 (中略) いまのところ、春日灯籠がぽつねんと置かれているだけである。庭は、雪に覆われている。春日灯籠にも白雪が積もっている。 ← めっちゃ好きな描写。 “庭がある” “そこに雪が積もってる” の描写の順番が良くて、頭の中で想像した庭に、ふっと雪が積もったんだよ。
- 章ごとの事件の謎と、作品通しての村重さんの謎の2本立てかな、と思ってたんだけど、だいぶ毛色の違う謎だったな。それもそのはず、村重さんの謎については普通に史実において謎だった。有岡城の戦いの動機は、よく分かっていないらしい。
- 読むのに8時間かかった。オフの日の午後に、コーヒーでも飲みながら読み切っちゃおうと思ってたんだよ。だって米澤穂信だもん。読みやすい文体で、ミステリ (緑さんの米澤穂信イメージ) でしょ? 午後の数時間でイケると思ったんだよ。ところがどっこい。歴史モノなので言葉も固有名詞もけっこうむつかしくて、時間をかけちゃった。知らない言葉は下の方にまとめといたよ。
わからなかった言葉
これだけ分からなかったら読むのに時間かかるよ。
- 普請: ふしん。建設作業のこと。
- 夫丸: ふまる。雑用をするひと。
- 伴天連: ばてれん。キリスト教に改宗した日本人。
- 後難: こうなん。あとで起こりそうな災厄。
- 鈍根: どんこん。アホ。この小説はこの悪口がたくさん出てくる。
- 近習: きんじゅ。主君のそばで働くひと。マジ読めなかったコレ。
- 粗略: そりゃく。手抜き。
- 粗忽: そこつ。いい加減。
- 莞爾: かんじ。ほんのりと。 “莞爾と笑う” と使う。一見、めっちゃ笑うって意味かと思っちゃったけど全然違う。
- 炊ぐ: かしぐ。読み方がムズい。
- 盤踞: ばんきょ。長いことそこにいる。
- 茵: しとね。座布団みたいなとこ。
- 瞋恚: しんい。怒り。 “瞋恚の裏に動揺を見る” と使う。一見、心の奥……みたいな意味かと思っちゃった。
- 剽悍: ひょうかん。素早いし強い。一見、飄々としてるけど強い、みたいな意味かと思っちゃったけど字が違う。
- 諧謔: かいぎゃく。ユーモア。
- 生害: しょうがい。自殺。そんな言い方があるなんて知らなかった。
- 廻向: えこう。冥福を祈ること。
- 烏滸: おこ。愚かなこと。港に集まる烏のような連中が語源。
- 一両日: いちりょうじつ。1~2日。
- 讒言: ざんげん。誹謗中傷。
- 逐電: ちくでん。行方をくらます。これは意味は分かってたが、語源が気になったんだよ。これは雷を追って行く、が語源。
- 懈怠: けたい。なまけ。
- 詮議: せんぎ。罪人の取り調べ。
- 襤褸: ぼろ。読めるけど書けないってやつだけど、これってどういう服のことなんだろうと思って。画像検索したらホンマにぼろぼろだった。
- 陪臣: またもの。家臣のさらに家臣。読み方、ムズいはずなんだけど不思議と忘れない。
- 無聊: ぶりょう。ヒマ。 “無聊を慰める” と使う。
- 図に当たる: ずにあたる。計略どおりに進む。
- 調練: ちょうれん。兵士の訓練。
- 自若: じじゃく。慌てない。
- 俚諺: りげん。民間のことわざ。
- 無曲: むきょく。工夫がない、面白くない。
- 花押: かおう。署名の代わりに書くマーク。
- 譴責: けんせき。懲戒処分の中でいちばん軽いもの。始末書提出。
- 陋屋: ろうおく。粗末な家。
- 衒う: てらう。見せびらかす。
- 鯨波: とき。 “えいえい” “おう” のこと。いやあ、難読漢字ですねぇ。
- 床几: しょうぎ。長椅子のこと。
- 仕儀: しぎ。なりゆき。
- 数寄屋: すきや。茶室のこと。読みは分かるけど意味は知らんかった。
- 周章: しゅうしょう。あわあわわたわたのこと。章には明らかって意味があるので、これは “目立って歩き周る” ってことだよ。
- 蘭奢待: らんじゃたい。東大寺正倉院にある香木。なんだよ香木って、と思って画像を見たけど、なんだよこの謎の木は。この漢字すげえよ、蘭奢待の中に “東大寺” が入ってんの。オモロすぎ。
- 思料: しりょう。考えること。
- 驟雨: しゅうう。にわか雨。
- 温気: うんき。意味はそのまんまだけど、いやあ……読めないね。
- 名にしおう: なにしおう。有名ってこと。
- 壟断: ろうだん。独占。
- 払暁: ふつぎょう。日が登る前の明るくなってきたころ。
- 反故紙: ほごがみ。書き損じ紙。
- 平仄が合う: ひょうそくがあう。辻褄が合う。
- 増上慢: ぞうじょうまん。まだ悟りを得てないのに得たと思い込むこと。
- 遷化: せんげ。僧が死ぬこと。
- 盂蘭盆会: うらぼんえ。お盆あたりの仏教のイベント。
- 施餓鬼会: せかきえ。おんなじ頃のイベント。
- 警蹕: けいひつ。偉い人が通るとき、道の人払いをすること。やあね烏滸がましくて。
- 咳き: しわぶき。咳のことだよ。咳って言え。
- 悄然: しょうぜん。元気がない。いやあ一見、平然としていること (超然) かと思っちゃうよね。
- 掣肘: せいちゅう。邪魔すること。
- 俎上: そじょう。まな板の上。
- 鞆: とも。弓撃つときに使う装備のひとつ。
- 干戈: かんか。武器一般。
- 三寸不爛: さんずんふらん。口達者。
- 阿房宮: あぼうきゅう。秦の始皇帝が作った宮殿。
- 閑却: かんきゃく。なおざりにする。
- 泉下: せんか。死者の世界。
- 知音: ちいん。親友。