概要
友達に勧められたので読んでみた。なかなか楽しめたぞ。サマリと感想を書く。
サマリ
- ぼくらの脳は現代社会に最適化されていないので色々苦労してる (現代社会 = カロリーに溢れ、集中力が尊ばれる世界)
- とくに HPA 系の動作と、集中力散漫になりがちな特性が現代社会と合ってない
- その脳のつくりを利用 (ハック) した商品が流行している
- その商品、てか広告や SNS は、集中力をますます下げ、記憶力を低下させる (表題『スマホ脳』に関連しているのはココだけ)
- HPA 系の動作は瞬間的なストレス (危険) への対処へ最適化されており、現代にある長期的なストレスと合ってない
脳の機能は前時代用に最適化されている
地球上にぼくら人類が発生してから、これまでに10,000世代が生きてきた。現代社会はそのうちたった8世代。脳が、その8世代の生きてきた環境に最適化されているわけがない。 “当時” の環境に最適化されている。
“当時” に最適化された脳が、それぞれの環境でどういう結果を生むのかを記したものが以下。
脳の機能 | 当時の環境では | 現代社会では |
---|---|---|
強いカロリー欲求 | 餓死を回避し、生存できる | 肥満と2型糖尿病 |
注意散漫 | 周囲の危険を察知し、生存できる | ADHD と診断される、スマホ依存 |
不確かな報酬への欲求 | 新しい情報を取得し、生存につながる | ガチャ依存、ギャンブル依存、 SNS 依存 |
HPA 系 (ストレスへの反応) の動作 | 瞬時の反応を迫る危険を回避し、生存できる | 鬱 |
“当時の環境” では注意散漫で、危険に対して敏感に反応することが求められた。一方現代では真逆で、集中力が求められている。そんなん同じツール (脳) で対応できるわきゃないよな……。
HPA 系の動作
- HPA = 視床下部、下垂体、副腎のこと。危険が発生したときコルチゾールとアドレナリンを分泌して心拍数を上げ、肉体を “闘争か逃走か” 状態にする。
- “闘争か逃走か” 状態では以下のような状態↓になる。
- 落ち着かない (落ち着いている場合じゃない)
- 心拍数アップ (血液を筋肉に集め、今すぐ動き出さねばならない)
- おなかが不調 (消化器官に血液を回している場合ではない)
- 口が乾く (唾液腺に血液を回している場合ではない)
- 汗が出る (上がった体温を調節するため)
- この機能は “いま生き延びる” ための機能であり、瞬時の反応を迫る危機に対応するためにある。しかしその機能に向いていない心理社会的な種類のストレスにも反応する。
- “いま生き延びる” ための状態を長期間続けていたら身体が不調になる。これは鬱の一因となる。
じゃあどうする
鬱への対応については特に記述がない。
ただし、 HPA 系は決して人間を傷つけるためではなく、人間を助けるために発達したこと……そして、鬱のことを正しく認識することが重要だと著者は語っている。
報酬系の動作によって衝動を煽られ注意力散漫になる
- 報酬系はドーパミンを分泌して、人間に行動の動機 (衝動) を与える。
- 以下のようなタイミング↓で分泌する。すべて “当時の環境” において生存するための行動だ。
- 空腹時に食べ物を見る (餓死回避に必要)
- 他人との付き合いをもつ (コミュニティで必要)
- 繁殖行為 (もちろん必要)
- 新しい知識を得る (生存に必要)
- 不確かな報酬を期待する (生存に必要)
- マルチタスク、注意力散漫でいる (危険察知に必要)
- 具体的には、これらの行動をするワンテンポ前にドーパミンを分泌する。ドーパミンは “させる” 役割をもつからだ。
- 現在、ゲーム会社、 SNS 企業はこの報酬系の機能を利用 (ハック) し、自分たちの商品へ人々が依存するよう促している。
- 少しずつ新しい情報が表示される作りによって、スマホは毎日何千という小さなドーパミン報酬を与え、人々を注意力散漫にさせ、スマホ依存にさせる。
- FB やインスタは “いいね” の通知を保留することがある。上述したよう、ドーパミンは結果を期待している間に分泌されるからだ。
- “いいね” を創ったローゼンスタインは、 SNS の依存性はヘロインに匹敵するとして、使用を制限している。ジョブズやゲイツといった IT 企業トップは子供のスマホ使用を制限している。
- まあ、そりゃそうだよな。作る (依存させて儲ける) 連中が、いちばん依存性を理解しているのだから。
- デジタル化が進んだ社会では大量の情報を処理するために集中力が必要とされるのに、デジタル機器が人々から集中力を奪っているのだ。
じゃあどうする
衝動を抑制し集中力を得る……というよりは、注意力散漫が進行することを避けよう、というのが趣旨だ。
- マルチタスクをやめる: マルチタスクをよくやる人は集中がかなり苦手で、重要でない情報を選別し無視する能力が貧弱で、暗記も苦手なことがわかっている。てか “マルチタスク能力” すらシングルタスク派に劣る。実は、本来脳はマルチタスクをすることは出来ず、マルチタスクをするとき脳がやっているのは “ひとつひとつの課題を切り替える” ことだ。だから集中力がある人のほうが強いってことね。逆に普段からマルチタスクをしているということは集中力が鍛えられていないということだ。
- スマホを別室に: スマホの存在がわずかにでもあると認知能力が下がる。スマホを教室の外に置いた生徒のほうが、サイレントモードでポケットに入れたままの生徒より、記憶力と集中力に良い結果を出す。また、朝にスマホを預けるようにした学校では生徒たちの成績が上がった……という結果が複数存在する。
- 運動する: 運動は最善の方法である。基本的にすべての知的能力が、運動によって向上する。心拍数が上がる運動であればなお良い。ほんの少し (6分程度) の運動でも、記憶力と集中力の向上が見込めることが分かっている。理由は分かっていないが、古来、狩り、逃走といった運動と集中力が結びついていたからだと推測されている。
所感
正直なところ “スマホ脳” というタイトルはビミョーだと思う。本編のほんの一部にしか関係していないからだ。
- HPA 系について: バッド・ステータス “闘争か逃走か” がとても分かりやすかった。本編でも、鬱への対応は事実を認識することである的なことが書かれているが、ぼくも同感だぜ。ストレス症状が自分の身に起こったとき、いったい何が起こっているのか理解することは効くものだ。そう、本来長時間続くはずのないバステ状態が続いたことによる後遺症なんだよ。
- 集中力について: 集中力とは情報を無視することである、とぼくは理解した。
- 衝動について: スマホについ手を伸ばしたがる、食べ物に手を伸ばしたがる、ネット記事のリンクを踏みたがる……ことを衝動と表現しているところが気に入った。サマリではシンプルさ優先のためはぶいたが、衝動を抑える能力は脳の前頭葉にあるらしい。