概要
川北稔さんの本を読むのは、3冊目!
ぼくらに馴染みのある “先進国、後進国” という言葉は、じつは、歴史学のほんのひとつの分野、 “一国史観” のワードなのだ。川北さんはその分野を不適切とする側の人で、かれの主張する考え方は “一国史観” に対して “近代世界システム論” という。この考え方を通して16c〜近代の歴史を見てみようぜ、っていうのが今回のメインストリームだな。
サマリと感想を書く。
サマリ
一国史観って何
- 頑張った国……北側の国々は先進国となり、そうでなかった南側の国々は後進国となった、という考え方。
近代世界システム論って何
- 一国史観はおかしい。実際のトコ、北側の国々が工業化される過程で、南側の国々はその食糧・原材料生産地として猛烈に低開発化されたのだ。そのせいで南側は容易に工業化できなくなったのだ。
- 近代においては、全世界の国々は世界的な分業体制をとっている。生産物を大規模に交換することで、世界経済がなりたっている。
- 交換といっても、中核の国々が有利で周辺の国々が不利な、不等価交換だ。これが南北問題につながっているってわけ。
- 世界システムには “世界帝国” と “世界経済” がある。あるっていうか、世界的な分業体制を成り立たせるには、そのパターンがあるってことかな。
- “世界帝国” は不可能。スペインとかフランスとかナポレオンとかヒトラーとかがそれを目指したが、財政的理由で失敗した。というわけで実際の近代世界システムは “世界経済” の形式をとっている。
世界システムはどうやってできたの
- 16c、ヨーロッパの北西部は封建制度の社会だった。封建制度は、裁判権をもつ貴族どもが、農民が生産する経済的余剰のほとんどを吸い上げる社会制度である。
- この制度には限界がある。すなわち、やがては人口の増減や生産の停滞によってモノが足らなくなり闘争が強まるのだ。
- この危機を脱するためには、分け合うもとのパイを大きくする以外にない。だから15~17cの大航海時代を契機として、対外進出をすすめたってわけだ。
- ここから世界システムが……世界的な分業体制が……できていき、ヨーロッパは発展していくのだが、やってるコトは結局封建制度である。なので、パイが足らなくなったときまた危機が起こる。
なんでヨーロッパ北西部が中心になったの
- 近代を生み出したとされる火薬や羅針盤や印刷術などは、ことごとく中国が発明したものだ。しかも技術水準、農業や製造業の生産力も、おそらくアジアのほうがヨーロッパより高かった。なのに、なんか当然のように、ヨーロッパ北西部から世界システムが始まっているけど、それはなぜだ?
- なぜかといえば、ヨーロッパが武力の発展が早かったからだ。ヨーロッパには政治的統合がなかったため、各国は武器と経済の開発を競って進めたので、武力がよく発展したのだ。
- いっぽう中国は帝国の形態をとっていた。帝国では、内部における武器の浸透や発展は阻止されるものなのだ。これじゃ武力が発達するわけはない。
- そんなわけで、ヨーロッパがガンガン対外進出を果たし、将来的にアメリカという巨大な資源供給地を得るのは必定であった。
- そしてヨーロッパがアメリカを発見したことが、東西の歴史的明暗を分けることになるのだけど、それはまた別のお話。
16c、世界システムは世界をまだ覆っていない
- 16cの段階では、 “世界システム” はヨーロッパとラテンアメリカのみを含んでいて、アジアはまた独自のシステムに属していた。
- どうしてアジアがヨーロッパ連中の進行を抑えられたかといえば、16c、アジアはすでに商業的に成熟期を迎えており、ヨーロッパがそれをコントロールすることは不可能だったからだ。
- いっぽうで、大西洋やブラジルでは、ヨーロッパ人は、原住民を絶滅させたり西アフリカから運んだ黒人を奴隷化したりしてプランテーションを作りまくっていた。
- これは、この間の読書でさんざん読んだとおりだな。
- (2022-09-04)川北稔『砂糖の世界史』
世界を覆うと、またパイが足らなくなる
- 17c、またパイが足らなくなってきた。やっぱり “世界システム” なんつっても拡大版の封建制度だから、16cと同じ問題が発生するわけだ。しかも今回は、すでに “世界システム” を拡大しきっちゃったため、さらに周辺を獲得することは不可能だ。
- そんなわけで中核国としての生存競争が始まるのだった。最初に大成功をおさめたのは、オランダである。最初のヘゲモニー国家だ。当時、オランダは農業の黄金時代を迎えており、ヨーロッパ最大の漁業国であった。
- ヘゲモニー国家については、先日の読書で知ったよな。
- (2022-10-01)川北稔『イギリス 繁栄のあとさき』
- またイギリスでは、こういったエコロジカルなデッド・ロックを、農業革命、商業革命、市民革命で乗り切って、19cのヘゲモニー国家となった。量を増やすことが出来ないなら、質を上げるしかないってコトだよね。
- 農業革命は、新農法によって単位面積あたりの収穫量を増加させたことを指す。商業革命はなんかこう貿易をうまくいかせたことを指す。市民革命はゴメンなんかよくわかんなかった。
周辺が増えなくなると周辺の価値が上がる
- さて最近では、近代世界システムは世界を覆いきった。中核国が資源供給地としての新たな周辺国を得ることは不可能になった。
- そのため、資源が従来の歴史にはなかったほど重要な意味を持つようになっている。よって、資源を供給する周辺国の地位が、世界システム内で向上している。
- たとえば中国とかインドやラテンアメリカ、アフリカの諸国やブラジルは、すでに単なる低開発国とはいえなくなっている。
感想
『砂糖の世界史』より読みづらいが、『イギリス 繁栄のあとさき』より読みやすい本だった。本書は放送大学の講義資料として執筆されたものらしい。だから章立てがハッキリしていて分かりやすいし、大学のころの講義を思い出しながら楽しく読めたよ。こういう本は、寝る前に一章ずつ読んでいくのが楽しめるね。
ところで、 “システム” “世界システム” “近代世界システム” という、ちょっとずつ違う言葉が飛び出すことが思考コストをいちいち食うよな。これらの言葉の使い分けについて説明はとくになかったと思うけど、ぼくは以下のように捉えたよ。
- システム: 資源の流通が行われている範囲。抽象的なワード。
- 世界システム: 中核国が周辺国を搾取するタイプのシステム。抽象的なワード。
- 近代世界システム: 世界システムが現在、地球を覆っている姿。これら↑よりやや具体的なワード。周辺国の立場が強まってきている状態。
その他、印象的だった点↓
- 中核国では、労働者の賃金が上がるため、生産力が低下するという話。日本の現状を見ると納得できるよな。国内の労働者よりも、中国やベトナムの労働者のほうが賃金が安く能力が優れている例をよく見る。こうして、日本もやがて過去のヘゲモニー国家のように……日本はヘゲモニーまでいっていなくとも……金融に頼る国になっていくのかな。