概要
ふと目について、 “ぼくはゼッテー手に取らねータイプの本だな” って思ったんで読んだ。緑さんは、感性が死なないために読書をしており、自分の偏見や好みにとらわれず幅広く本を選ぶことを目指したいのだ。
サマリと感想を書く。
サマリ
本書は、名画に登場する人物たちが着ている服に注目する。絵を見て、人物たちが着ている服を出発点にして、その絵がかかれた時代の流行、その絵がかかれた背景へ解説を広げていく。
15~16世紀
この時代はアレだな、イスラムの支配からいち早く脱したポルトガルとスペインが、南北アメリカとアフリカの領有権を手前勝手に分割しくさっていた頃だな。国際市場の中心はアントウェルペンだったハズだ。
“ルネサンス” はこの時代だったみたい。
- クラーナハ『ユディト』: ぶった斬った生首を持っている女性の絵だ。まあ生首は置いといて、なんか謎に切れ目のある服に注目しよう。当時は、裁断仕立て技術が未発達だった。だから服をうまく立体的に出来ず、布に切れ目 (スラッシュという) を入れて立体的にしていたのだ。なお、ユディトさんは架空の人物。 https://www.google.com/search?q=ユディト
- ヒリアード『薔薇の茂みの中の若者』: 出たぜ出たぜ、襞襟 (ひだえり。ラフという) とタイツ (パ・ド・ショス) を着用したオッサンだ。これぞ中世ヨーロッパって感じだな。タイツはウール地やニットだった。襞襟は、薄い麻布を糊付けしてアイロンで固めて作る。これを整えるには恐ろしく手間暇がかかったそうだ。 https://www.google.com/search?q=ヒリアード薔薇の茂みの中の若者
18世紀
この時代はアレだな、ヨーロッパ、アフリカ、カリブ海の間の三角貿易の全盛期であり、ヨーロッパ人が非人道的な奴隷使役をガンガン行っていた頃だな。
“ロココ” はこの時代の文化だ。宮殿だけでなく、市民も “高尚な趣味” として芸術を嗜むようになっていく文化である。
- ヴァトー『ジェルサンの看板』: ジェルサンというのはノートルダム橋にあった画廊である。この時代は画廊が絵画を扱っていた。 https://www.google.com/search?q=ジェルサンの看板
- フランソワ・ブーシェ『ポンパドゥール夫人』: 18世紀フランスでたくさん肖像画がかかれた人物のひとり。ドレス、スカート、胸当てが一揃いになっている服はローブ・ア・ラ・フランセーズ (フランス風ドレス) という。この絵にあるロココ要素は、ドレスのみならず、時計、柱、クッションといったインテリアも同等にゴテゴテしている点。 https://www.google.com/search?q=フランソワ・ブーシェポンパドゥール夫人
- ジャン=オノレ・フラゴナール『ブランコ』: ああ、瞳孔の開いた女性がブランコに乗りながらサンダルをすっ飛ばしている絵だ。わけわからんと思っていたが、実はロココっぽさを持っている。近代では非道徳的、猥褻とされているものが、当時では当たり前だった。瞳孔の開いた女性は、ブランコを押している男性と夫婦関係であり、自分のスカートを覗いているサン=ジュリアン男爵と愛人関係である。そして当時はスカートの下に下着を穿かない。これがロココだ。 https://www.google.com/search?q=瞳孔の開いた女性がブランコに乗りながらサンダルをすっ飛ばしている絵
19世紀
これまでは、絵画の主役は、貴族みたいな連中だったよな。しかしこのあたりから、女優とか高級娼婦がその位置に立ち始める。歴史の中での “砂糖” がそうだったように、文化というものは王宮から民衆へ広がっていったのだなあ。
- フランソワ・ジェラール『レカミエ夫人の肖像』: 透けるように薄い下着のような木綿のドレス (モスリンという) を着てポーズをとる女性。ああなるほど、こういう高級娼婦が絵画の主役になったのねと初見で思うだろうが、違う。この人は娼婦ではない。当時のフランスでは、下着で出歩くのが流行っていたのだ。アホなの? その影響で痴漢が横行し、薄着のしすぎでインフルエンザが蔓延したという。アホなの? https://www.google.com/search?q=フランソワ・ジェラールレカミエ夫人の肖像
- マネ『バルコン』: このバルコニーはパリの風景である。パリは美しいと誰もが言うが、それは1852年のオスマン計画が、古いパリを破壊し、人々に対し強制立ち退きを敢行して、大工事を施工したからだ。そのとき完成した新しいパリの特徴として、富裕層は建物の2階のバルコニー付きの部屋に住んでいる。貧乏人は高層に住んでいる。エレベーターのある現代とは真逆である。で、絵画の男女はバルコニーから外を見ているので、建物2階にいるんだろうなという推測ができるわけだ。女性のひとりが持っているパラソルはこの時代の流行り。 https://www.google.com/search?q=マネ作品バルコン
- モネ『散歩、日傘をさす女性』: パラソルといえばこれだろう。19世紀後半の絵画や小説には、傘が頻繁に登場する。日本でもパラソルが流行していたらしいぜ。 https://www.google.com/search?q=散歩、日傘をさす女性
- ジャン・ベロ『ブローニュの森の自転車小屋』: 服装に注目しながら絵を見ていくと、この絵の異様さにすぐ気がつく。女性がズボンを穿いている……! 19世紀後半に自転車の大ブームが起こり、女性はズボンを穿かざるをえなくなった。そこで女性が穿いたのがブルマー。女性はボーター (カンカン帽のこと) を被り、ブルマーを穿いて自転車小屋へやってくるのだった。 https://www.google.com/search?q=ジャン・ベローブローニュの森の自転車小屋
所感
テーマをひとつ決めて、物事へアプローチするというやり方は、わかりやすくて良いな。先日の “砂糖” もそのタイプの本だった。
こういうタイプの本は、 “いま何の話してんだ?” ってならなくて良い。
ところで、フランソワ・ブーシェ『ポンパドゥール夫人』の絵は凄いな。表面的な部分を鑑賞するだけでも、色合いが素敵すぎて惹き込まれる。また、彼女が持つ本は、彼女の教養を象徴している。ポンパドゥール夫人は大変な読書家だった。それも女性がよく読むような説話本などではなく、詩歌、哲学、歴史、電気、文法の本を3,525も所蔵し、どれも読み込んでいたそうだ。かっけえ。