概要

親愛なるルームメイトが世界史好きなんだ。ぼくもちっとは教養を身に着けてみるかと思って、とっつきやすそうな書を選んで読んだ。

かつての歴史家は、勤勉な国民を持ち、無駄遣いをしなかった国が豊かになったと考えていた。怠け者の多い国は貧しくなったと考えていた。じゃあ、カリブ海にいろいろな産業が成立しなかったのは、そこに住む黒人たちが怠け者だったからか? そうではない。

本書を読むと、これ↑に答えられるようになる。サマリと感想を書く。

 

サマリ

7cから近代に至るまで、砂糖は “世界商品” として世界中の文化や経済に影響を与えた。影響とは主に、ヨーロッパの国々の経済発展と、その国々によって奴隷狩りされたアフリカの国々の発展鈍化、そして栽培の地となり砂糖革命が起こった島々の発展鈍化である。

  • 砂糖の用途としては、薬品やデコレーション、そして食用である。
    • 薬品: むかしは慢性的栄養不足だったので、高カロリーの砂糖が薬品として認識されていたというのはまあ違うとも言えない。なお、薬品なのでキリスト教の断食の日にも食べてよいものだった。
    • デコレーション: 砂糖菓子のことだ。高価だったんでスノッブ (上流気取り) の連中のステータスシンボルとなった。
  • なぜ奴隷狩りが発生したかといえば、砂糖の原料である砂糖キビを栽培するには、膨大な人数による重労働が必要だからだ。白人の労働者を使うより、アフリカで奴隷狩りをするほうが安上がりなのでそれが選択された。
  • それによって、アフリカの国々の発展がなぜ鈍化したかといえば、働き盛りの若者がヨーロッパの国々によって大量に奪い去られたからだ。奴隷狩り自体は、ヨーロッパ人から依頼されたベニン王国等の黒人王国が行っていたのだが、そんな商売をしていて経済発展するわけがない。現在のアフリカが開発途上な理由のひとつがこれである。
  • もちろん奴隷の扱いはとんでもなく劣悪だった。とくに奴隷をプランテーションへ運ぶまでの “中間航路” と呼ばれる船旅は過酷だった。
  • 砂糖革命というのは、ヨーロッパ人が砂糖キビプランテーション (大規模農園) を作るために、その地の人間の構成、社会構造、経済のあり方を一変させることだ。
  • そんな島々の発展までもがなぜ鈍化したかといえば、その地で生み出された利益はすべて支配者側のヨーロッパ人が本国へ持ち去り、現地の経済発展へ投資することなどなかったからだ。また、そういった地はヨーロッパ人がプランテーションを建設し、モノカルチャー化した。そのような土地では他の産業は育たず、その作物の価格が暴落すれば容易に餓死者が出る。

ここまでざっとサマれば、アフリカの労働力が奴隷化されてプランテーションへ運ばれ、その利益がヨーロッパへ集まる構図が像を結ぶ。つぎに、歴史的に具体的にどのような地が関連しているのかサマる。

  • インドネシア: このどっかで砂糖キビが生まれた。
  • 地中海東部 (キプロス、ロドス、クレタ、マルタ、シチリア): 7~8世紀、砂糖キビが栽培された。
  • ポルトガル大西洋沖 (マデイラ、カナリア、サン・トメ): 11世紀、砂糖キビが栽培された。
  • ポルトガル、スペイン: 長いことイスラム教徒に支配されていたが13世紀に独立、大西洋へ航路を広げた。その後15世紀、南北アメリカとアフリカを勝手に分け合い、奴隷を手にする権利と栽培地の権利を得た。
  • アントウェルペン: 15世紀の国際市場の中心。17世紀、スペインの支配下で衰えた。
  • アムステルダム: オランダがスペインから独立したことで、17世紀の国際市場の中心に。
  • カリブ海、イギリス領バルバドスやフランス領マルティニーク: オランダ人によって、栽培の中心地がここに移される。

18世紀、栽培の中心がカリブ海になった頃が砂糖の貿易の全盛期で、それは三角貿易と呼ばれる。 (ヨーロッパ → 綿花、鉄砲 → アフリカ → 奴隷 → カリブ海 → 砂糖、煙草、綿花 → ヨーロッパ)

そして近代、奴隷制度への反発と、食生活の変化に押されて、砂糖は “世界商品” の座を降りようとしている。

 

所感

歴史を学ぶこととは、暗記をすることではなく、いまの世界がどのようにしていまのような状態になったのかを知ることだ。その方法として本書では、 “砂糖を軸に、世界をひとつながりに観察する” というやり方を採用している。これは砂糖が “世界商品” だから出来ることだが、その方法自体に、まず感銘を受けた。きっと他の “世界商品” であるクルマや綿花を軸にして見ることでも、見えるものがいろいろあるんだろうな。

読後感としてはもう、とにかくヨーロッパ人がアフリカ人 (アフリカ人って言うかな?) を搾取する様がグロテスクだったな。著者もそれを強調している感じだった。そしてその搾取は、今もまだ続いているんだろうなあ。一度生まれた大きな格差は、その後より広がっていくものだから。

本書の文章は読みやすい文体で、寝る前とか ELDEN RING のロード中にちまちまと軽く読み進めることができて、楽しめた。

他方、サマリを書くのはひどくむつかしいな……。書くのに苦労していると、どうしてこんな趣味を持っているんだろう……と思えてくる。

その他……

  • 暴力って本当に根源的な力だなあと感じた。奴隷交易なんて、ヨーロッパ人がアフリカ人と比べて圧倒的な暴力を持っていたから成立したものだもんね?
  • ポルトガル、スペイン、オランダが、 “独立 → 開拓 → 発展” っていう道をとっているのが目についた。どうしていくつもの集団が独立を目指すのかと不思議だったけど、その後の発展を求めてのことだったのかも。ただし、開拓のステップを踏まなければそれは成立しない。