概要

年末年始はこれを読破すると決めていた。サマリと感想を書く。

 

サマリ

  • 高校三年生のころの主人公: エッセイ・コンクールで “少女” さんと出会う。ふたりは交際を始める。少女さんは “何もかもぜんぶ、あなたのものになりたいと思う” とまで言ってくれた。しかし少女さんは、 “日の光が雲間からさっと” 差し込んだらまた連絡する、と手紙をよこして、去ってしまった。
  • 少女さん: この子はどうやら “街” に本体が居て、この子自身は本体の “影” らしい。家庭環境が悪くて、精神的には不安定。現実的には、失踪したのは家庭環境のせいのハズ。
  • 街: 『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』で出てきたような街。少女の想像の産物である。でも村上春樹の世界観では、想像上のものはたいてい実在している。
  • 四十代の主人公: 少女さんを失った喪失感を持ったまま過ごしていたが、ある日、 “街” へ落ちてしまった。街では人は影と切り離されて、仕事を与えられる。主人公の仕事は『世界の終り』と同じ。図書館で作業すること。で、『世界の終り』のラストと同じように、主人公は影だけを現実世界へ帰す。
  • 街にいる少女さん: 図書館に勤めている。あの少女さんの本体。この子に会えて、主人公は喜ぶけれど、主人公と付き合っていたのは影のほうなので、この子は主人公とは初対面。しかも感情も希薄。
  • 現実世界へ帰ってきた主人公: “なんで自分は残って影を帰したハズなのに、自分が帰ってきてるんだ?” と思っちゃうが、この主人公は影のほうである。衝動のままに『海辺のカフカ』のような福島の図書館へ転職して、子易さんとか、添田さんとか、イエロー・サブマリンのパーカの少年とか、コーヒーショップの彼女と出会う。
  • 子易さん: 図書館の館長の男性。この人は影を持っていない人なんだけど、街とは関係なくて、故人であり、幽霊であるせい。
  • 添田さん: 図書館の人。実質的にひとりで図書館を切り盛りする有能な女性。子易さんと信頼関係があり、主人公の他に、子易さんの幽霊を見ることができるのは彼女だけ。
  • イエロー・サブマリンのパーカの少年: サヴァン症候群で、映像記憶の能力を持っていて、社会適応能力を欠いている。だから現実世界に馴染むことが不可能で、 “街” へ行きたがっている。主人公から街の情報を得て、そこへ行く。
  • コーヒーショップの彼女: 主人公と良い感じの雰囲気の人。ノンセクシャルで、性行為を受容不可なのが悩み。解決不可能な問題なので、彼女と結ばれるためには、彼女に合わせて、自分の意識の “壁” の堅さと形状を変えるしかない。
  • 一方その頃、街にいる主人公: イエロー・サブマリンのパーカの少年が街に現れてビックリする。主人公はそろそろ街を離れたがっていたので、少年に仕事を継承してもらって、現実世界へ戻ることにする。戻って、影と一体化するのだ。

 

所感

個人的には、これは以下のようなストーリーであるという受け止め方をした。

  • 主人公は、少女さんを失った喪失感により、意識の壁を作ってしまった。
  • その壁のせいで、人と深く関わることを失敗する人生になってしまった。
  • なぜか街へ行くことが出来て、本体と影に分かれる。 (これが何を意味するのか、まだ読み取れない……)
  • ノンセクシャルの彼女という、付き合っていくために、そして自分を受け止めてもらうために、意識の壁を修正する必要のある、決定的な存在と出会う。
  • 人は意識の中に、街と、それを囲う壁を持っている。ただし、その壁は形状が不確かなものである。幸せになるために、壁を柔軟に変えていこうぜ、という結論。

うーん。まあ、そうだよね……。

そうだよね……。って感じだ。今のところは。

さて、他、ばらばらと所感をノートしておく。

  • “その街に行かなくてはならない”: 単行本の帯のフレーズ。すごくいい。とても好き。
  • 慶賀すべきものなのか、慨嘆すべきものなのか: 言葉の意味がわからなかった。慶賀はめっちゃ喜ぶことで、慨嘆はめっちゃ心配すること。
  • 使用に供せる: 言葉の意味がわからなかった。供するというのは、差し出すという意味らしい。
  • どうして葱なんだ: 病的でぞくっとした。
  • 余計なお世話かもしれませんが、子易さんはもう一度家庭を持つべきだと感じていたのです。というか、子易さんは安らかで温かい家庭を持つべき方だったのです。親密な家族に囲まれて、心優しく生活なさるべき方だったのです。: “心優しく生活なさるべき方だったのです” っていい台詞だな、と思ってメモした。ぼくはきっとそうじゃないんだろうなとしみじみ思ってしまった。
  • 雨が静かに降りしきる海の光景: 高校三年生の主人公が、少女さんとの永劫の絆を想像するとき、頭に浮かべるイメージ。素敵なイメージすぎるだろ。

『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』っぽい要素と、『海辺のカフカ』っぽい要素が出てきたので、何事かと思った。

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