概要
友達: 楽天ポイントが余ってんだけど何買おう?
緑さん: またかよ。芥川賞でも買っとけ。
友達: そうするか。
ぼくも買っちゃった。友達が芥川賞読んでたら自分も読みたくなるのが人情ってものだよ。サマリと所感を書く。
サマリ
- 社会学者のマサキ・セトが “ホモ・ミゼラビリス” という概念を提唱する。
- その概念をベースに、シンパシータワートーキョーの建設が決まる。ホモ・ミゼラビリスたちが幸福に暮らすための塔。ザハ・ハディド案の新国立競技場のそばに建てるのだ。
- 牧名沙羅はめっちゃ優秀な建築家。シンパシータワートーキョーのコンペに参加しているが、その名前が気に入らない。
- 東上拓人が東京都同情塔という名前を思いつく。牧名沙羅がそれが気に入って、設計を始める。独立した建築物ではなく、新国立競技場と揃って新宿全体の景色を完成させるような設計である。そのアイデアにより彼女はコンペに勝つ。
- 塔の完成後、マサキ・セトは異常者に撲殺される。
- 東上拓人は塔でサポーター (刑務官) として務めることになる。
- 牧名沙羅は塔への批判から身を守るため、身元を隠し、ホテルで隠れ暮らすことになる。
- ジャーナリストの Max Klein が塔とふたりを取材する。塔のことは “薄汚い金の話なんか、ここでは1秒もしたくない” と評する。
- 牧名沙羅は塔の設計について反省している。自分自身が心から同意していないプロジェクトに協力するべきではなかったそうだ。
所感
- この本を話題に出したのは、作者と世代が近くて、興味を惹かれたからだ。期待通り、いろいろと自分と近い感性を感じることができた。
- たとえばさ、こんなところ↓で。同じ時代を生きてきた感じがするぜ。
- 現実7割、ファンタジー3割くらいの世界観
- タイトルを飾るオブジェクト名 (東京都同情塔) が、物語の中で実際のモノとして登場すること
- 言葉が思想を作る、という我々の世代では常識になっている考え方
- 記憶に残りやすい、少数のエキセントリックな登場人物たち
- 登場人物たちの言葉遊びっぽい名前。マキナとか、トージョーとか
我らが主人公牧名さんについて。
- 牧名さんはヒトを建築物だと思っている。そこから、 “ヒトは思考する建築” とか “自分が築いたものの中に他人が出たり入ったりする感覚が最高に気持ち良い” という感覚が生まれるのだろう。ひとつの思想から、複数の具体的な表出が生まれている状態は分かりやすいね。
- “とか言ってる女がここにいるとして君はどう思う?” というわかりやすい口癖は、我々の世代に親しみ深い、エキセントリックなライトノベルの登場人物たちに通じるところがあって受け入れやすいよね。
- 好きな登場人物だ。無意識的な行動がなくて意識的に行動している点が好き。意識的に行動する人は、失敗を他人のせいにしない。それが好き。
- “言うべきじゃないことを私は言うことができない。”
- “私は私の言葉、行動すべてに、責任を取らなくてはいけない。”
- 牧名さんが塔の設計を後悔しているのが不思議だったぜ。だって、東上くんのネーミングを気に入ってたし、新国立競技場とのシナジーを思いついたことも満足していたじゃないか。だけど、それだけでは牧名さんには不足なのだろうな。彼女は100%納得して初めて行動したい女性なんだ。塔については、デカい話だからノリで進めてしまったけれど、全体を見ると納得度が70%くらいだから、イカンかったなーと反省しているんじゃないかな。この描写によって、彼女は、社会的な成功よりも、個人の価値観を優先する女性だということが分かるわけだ。
- 本作の最後の一節、牧名さんが塔の崩壊について語るシーンは意味がわからなかった。あのシーンで作品を終えることにどんな効果があるんだ……?
拓人くんについて。
- “だからまずは牧名さんがコンペに勝って、クールなタワーをデーンとぶち建てたらいいんだよ” 名言すぎるぞ。
マサキ・セトさんについて。
- 友達の分析によると、彼を殺した犯人は、彼の理論の熱心な信者。ネガティブな言葉を禁じる、という思想を犯人は信じていた。が、当のセトさん本人がネガティブな言葉を言うもんだから、ぶち切れて殺してしまったのだ。
個人的に共感する一節がこちら。
- “罪の意識はありませんでした。” “自分を虐げた社会に復讐ができたと、ある種の優越感のようなものを覚えていました。”
- ↑この描写好き。例えば、いじめられっこって、いじめっこのみならず、ヘルプをくれない周囲の連中、その連中が蔓延っている社会そのものを敵視することがあるんだよな。それが、 “いじめで性格が歪む” ってことなんだよ。まあしかたないよねー。