概要

ルームメイトが貸してくれたので読んだ。村田沙耶香さんの本は、『コンビニ人間』以来だ。

『コンビニ人間』がぼくのお気に入りなのをルームメイトは知っているので、この短編集も気に入るのでは? と紹介してくれたのだ。短編集だからちょっとサマリを書きづらいので、掲載作品の一部について、小さなサマリと、所感を書こうかな。

 

サマリと所感

『生命式』

  • 現代から30年後くらい、人食への抵抗感がゼロになった世界の話。いまだにそんな文化に馴染めない池谷さんはずーっと居心地悪く過ごしているのだけど、あるとき、故人を弔う人食の会 (生命式と呼ばれている) の中で、故人がとても愛されていたと実感する出来事があり、その抵抗感が薄らぐ話。
  • まんま、結婚式や葬式のメタファーだと感じた。結婚式、披露宴、葬式は、見方によってはとんでもない悪習だ。因習を根拠に人々の時間とお金を奪うイベントで、それをビジネスが利用している悪習である、と考える人は多くいる。ただ、その意見はどちらかといえば過激であるというのが【現代の平均的な傾向】だと思う。悪習だと感じる側の人々は、その価値観と自分の感性に折り合いをつけて、その存在と付き合っていく必要がある。たまに、その慣習の中でよい気分になると、 “あれ? これも悪くないかも” と思うことだってある。そう思えたら、一気に賛成派になりやすいはずだ。マジョリティと同じように感じられることが、一番ラクだから。……というのが、『生命式』で描かれていることだと思った。

『素敵な素材』

  • 池谷さんは、生命式キモいなあ〜と静かに思っているタイプだったけれど、一方でナオキくんは過激派だ。こちらは『生命式』とはちょっとだけ違うパラレルワールドで、人間の死後に、その人体パーツを家具や衣類に加工することが一般化している世界だ。ナオキくんはその文化にずっと NO を表明しているのだが、父親の加工品を見たとき、子どものころの思い出の傷をそこに見つけて、この文化も悪くないかも、と思う。でも過激な反対派だったから、自分の心変わりに混乱してる模様だ。
  • 『生命式』と同じだ。どんな文化にも肯定派と否定派がいるけど、マイノリティからマジョリティへの心変わりは、 “丸くなった” ように見えるって話。

『素晴らしい食卓』

  • 偏食家たちが集い、お互いの食文化にドン引きし、 “別に分かり合わなくてもいいよね……” ってなる話。ただ最後にすべての食文化を受け入れる異文化交流モンスターの男が表れ、さらにドン引きするという嵐のような結末で幕を閉じる。

テーブルの上に、妹の作った魔界都市ドゥンディラスの料理と、ハッピーフューチャーフードの高給レトルト食品と、虫の入った容器が並んだ。 (『素晴らしい食卓』)

  • この展開↑クッソワロタ。でも最後に男がこのすべてを “おいしい! おいしい!” と頬張る展開には吹き出した。ドン引きしあっていた文化がお互いを理解し、一件落着することはあっても、文化の多様性は無限であり、どこまで行っても完全な調和は存在しない、というメタファーだろうか。

『街を食べる』

  • 都市部の雑草を採集して食べることを通じて、コンクリートビルも自然の一部だ、という観点に辿り着き、その考えを周囲の人々に布教する理奈ちゃんの話。
  • 理奈ちゃんの祖母が “(田舎も都市部も) 何もちがわねえさね。” と言っている。ぼくも高校のとき、 “ジャングルも街も同じ” っていうアイデアで作文を書いたことがある。なので、理奈ちゃんの主張は普通に同意できる。ただ、理奈ちゃんのアイデアでぼくと違うところは、 “スーパーの野菜より自生している雑草が優れている” という部分。ぼくは社会活動も建築活動も含めて自然の一部だと捉えているので、スーパーの野菜も自然だという考えだ。理奈ちゃんの過激派なところは、 “スーパーの野菜を貶める” ところと、 “自分の考えを普及させようとする” ところだ。こういうのは新興宗教と同じで、思想の自由で満足すればいいところを、自分の主張を持ち上げるために他者を貶めたり、その考えを普及させようとするところが迷惑なのだ。

 

全体的な所感

  • とくに感想を書きやすかった4作品だけ、感想文としてみた!
  • むかし、小説を書くことに挑戦したとき、 “考えを全部メタファーに置き換えれば小説になるんじゃね?” と思ったことがある。結局、自分以外の人間を描写するってことがうまくできなくて挫折したんだけど……。『生命式』を読んだとき、 “あきらかに、「誰かにとって現代社会はこんくらい気持ち悪いんだぞ」っていう話じゃん! 完全に結婚式と葬式のメタファーだし! あー、こういう感じだったのかも!” ってなったよ。著者が “考えを全部メタファーに置き換える” ことで作品を作っておられるのかはわかんないけれど、ぼくが当時やりたかったことは、こういう作品をつくることだったのかも、と思えて楽しめた。
  • これを貸してくれたルームメイトは、 “全体的に気持ち悪くて、受け入れられないとは思った。だけど、こういうものがあると受け入れないといけないのかな、とも思わせられた。だから、この作者はすごい人なのかも、と思った” みたいなことを言っていた。
    • いや……ちょっとここだけの話……ルームメイトは、どっちかと言うとこの本で描かれている、 “感性マイノリティ組” だと思うので、何言ってんの? と思った……。でもあれかな、感性マイノリティ組の苦難が描かれている短編集なので、そこにわかりみを感じ、感性マイノリティ組であることを突きつけられることが “受け入れられない” のかも。完全な想像だけども。
  • メタファーの話はおいといて、『生命式』『素敵な素材』の世界観自体について。人食ってところはアブノーマルではあるけど、あくまで死後の肉体の処理の話だし、優しくて魅力的な世界観だと思った。それに、『素敵な素材』の、人間家具、人間アクセサリは好きかも。遺骨指輪とか、結構良くないか? 人間の爪を鱗状にしたシャンデリアはヤバすぎて笑ったけど。
  • この短編集は、ぼくが大好きな村上春樹作品に通じるところがあると思っていて、日常と非日常のバランスが好みなのだよな。8:2くらいの、日常の中にちょっと非日常が混じっているくらいのバランス。
  • というわけで、読後感が良かった。