概要

この1年間は英語のことばっかり考えていたので……
英語はいい! もういい! しばらくいい! 数学とか興味ある! でも世界史とかも読みたい! ってなっていたところで、ちょうど、数学 + 世界史みたいな本が見つかったので読んだ。サマリと感想を書く。
サマリ
数学者たちが、世界史にどう影響を与えてきたか? って話だ。
- BC287 - シラクサのアルキメデス
- “エウレカ!” の人。これは王から “王冠が純金で出来ているかを壊さず調べて” という課題を与えられて、浮力の原理を思いついたときに叫んだ言葉。
- シラクサとローマが戦うとき “アルキメデスの鉤爪” “投石機” “熱光線” といった発明で、大軍ローマからシラクサを2年間も守る。
- 7c - インドでアラビア数字が完成
- これまではずっとローマ数字で、めちゃくちゃ計算しにくかった。
- アバクスという道具で計算するんだが、これは計算過程が残らないので微妙。
- 我々が使ってる数字がインドで完成して、アラビアを経由して 13c にヨーロッパに入る。だからインド・アラビア数字とも言う。
- 13c - イタリアのフィボナッチ
- 『算盤の書』でアラビア数字を伝える。
- めっちゃ計算しやすい! 計算過程も残る! でも簿記で改竄されやすい (0 を後ろに追加するだけで桁が増えちゃう) ので、そこがイマイチ。なので計算はアラビア数字で、文書ではローマ数字で、という過渡期になる。
- 15c - イタリアのパチョーリ
- この人は算法教師 (商人の子に数学を教える職業) だ。そんで教える中で、自分で教科書も作った。
- それが600ページ級の名著『算術、幾何、比例論大全 - スンマ』だ。全36章。これが “複式簿記” と “72の法則” を扱っている。
- 複式簿記は借方と貸方の総計が一致するように記録する簿記の方式で、ビックリなことに、当時から500年後の今までほぼ変わっていない。
- これのおかげで、この人は “近代会計学の父” って呼ばれている。そりゃ呼ばれるわ。
- 72の法則は投資の文脈でよく出てくる話で、元本が2倍になるまでの年数を
72/利率(%)で示すものだ。
- 16c - フランスのヴィエト
- ヴィエトは代数学を研究していた人で、スペインの暗号解読に貢献した。
- 当時、プロテスタントのフランス国王アンリ4世とカトリックのスペイン国王フェリペ2世が宗教戦争をしてた。
- アンリ4世は王位を守り “ナントの勅令” を発布して、信仰の自由を認めた。その後、17cに、ルイ14世が廃止することになる。
- 17c - フランスのヤコブ・ベルヌーイ
- ナントの勅令が廃止されたせいでロンドンへ国外転居した。
- “大数の法則” を考えた人。データ数が多くなればなるほど、理論上と実際の確率の誤差が小さくなっていく、という法則。コインを投げまくったら表が出る確率は50%になるってやつ。
- 17c - フランスのド・モアブル
- 当時から生命保険はあったのだけど、料金設定がガバガバだった。
- 『生命年金』を書いて、 “ド・モアブルの法則” を発表し、年齢が高いほうが死亡率が高いことを考慮して生命保険を運用するようにした。
- 最高寿命を86歳と設定して考えたんだけど、本人がホントに86歳で亡くなった。 (スゴすぎ。)
- ニュートンが “プリンキピアについて分からんことあるならド・モアブルに聞け” って言うくらいのプリンキピアマスター。
- 17c - ヤコブ・ベルヌーイの甥のダニエル・ベルヌーイ
- “限界効用逓減の法則” を考えた人。後世の意思決定理論に影響を与えた。
- 同じ量なのに、ビールは最初に一杯目が一番おいしかったり、お小遣いが1,000円から2,000円になるときの嬉しさは、20万円の給料が20万1,000円になるときの嬉しさとは違うことを示す法則だ。
- 18c - フランスのコンドルセ
- 著作の『多数決の確率への解析の応用試論』で、 “投票のパラドクス” と “陪審定理” を紹介する。数学を社会学に適用した初期の一例。
- これはフランス革命の直前で、民主的意思決定に関心が集まっていたので、この本が注目された。
- 投票のパラドクスは、総当たりがもっとも民意を汲みやすいことを示す。
- 陪審定理は、投票者の数が増えるほど多数決による正しい決定の確率が上がることを示す。
- 19c - ベルギーのケトレー
- ベルギー王立天文台を創設した人。でもベルギー独立革命軍に占拠されちゃう。それをきっかけに人間の行動に興味を持つ。
- この頃、社会学に平均値はあんまり使われておらず、主観、経験則がベースだった。
- そんな中、この人は『人間のその能力の発展について』を書いて、 “正規分布” の考え方を使って “平均人” という概念を作った。 BMI を作ったのもこの人。
- 正規分布は、平均値がもっともデータ数が多い、という山形の分布のこと。
- “近代統計学の父” と呼ばれている。
- 19c - イギリスのナイチンゲール
- “近代統計学の父” の考え方を “ええやん” と思い、クリミア戦争で、野戦病院での治療に統計学を使った人。
- データを視覚化し、死亡率は衛生起因のものが怪我起因のものより多いことを発見。そして衛生状態を改善することで死亡率を60%から半年で2%へ改善させる。
- 19c - イタリアのパレート
- お庭のエンドウ豆の総収穫の80%が、エンドウ20%から収穫できていることや、イタリア国土の80%が人口の20%に所有されていることに着目。それを “パレートの法則” とする。
- また “パレート分布” によって、過去10年のデータをもって、所得格差は極度の悪化をしないことを示す。
- これが高じて “エリート理論” を編み出す。少数のエリートが意思決定をして、多数の非エリートを支配するのがベストであるとする。この考え方をムッソリーニがファシズム体制に応用する。ファシズムは、独裁の形態の一種ね。
- 20c - イギリスのランチェスター
- レポート『集中の法則』にて、 “ランチェスターの一次法則” と “二次法則” を発表する。
- 一次法則は、近距離戦の戦力は兵数に比例することを示す。
- 二次法則は、遠距離戦の戦力は兵数の2乗に比例することを示す。言い換えると、兵数に勝る陣営は、遠距離戦をすれば、近距離戦よりもたくさんの生存者を残せるってこと。
- 20c - アメリカのベンフォード
- “ベンフォードの法則” で、自然界のデータの最高位の数字は1がもっとも多いことを示す。
- なんだよそれ?! って思うんだけど、人為的に操作できないものは比でスケールする (毎年2倍になる、とか) から、先頭の数字が1のときがもっとも多くて、9のときがもっとも少ない。
- この法則は財務諸表の不正検出のツールのひとつとして使われたり、選挙の不正訴えの根拠になっているらしい。でも実際に不正が発覚した事例はほとんどないらしい (なんじゃそら)。
- 20c - ハンガリーのノイマンとドイツのモルゲンシュタイン
- 共同で、ゲーム理論を経済学に応用し、『ゲーム理論と経済行動』を記す。
- ノイマンは、 WW2 の原子爆弾開発に関与し、 “広島や長崎に落としてどうする、京都に落とせ” と言った人。
- 20c - アメリカのナッシュ
- 『ゲーム理論と経済行動』を読んで、博士論文『非協力ゲーム』を書く。ここで “ナッシュ均衡” を発表する。
- ナッシュ均衡は、 “他店よりも安くします!” の結果、値下げ競争が収まるやつだ。これは言い換えると、 “自分だけ戦略を変えると損をする状況” だ。
- この理論により、冷戦の時代においては、アメリカとロシアは、戦うことなく核開発を維持しつづける道を選んだ。
- 20c - アメリカのアロー
- “アローの不可能性定理” により、誰もが納得して不公平感をもたない完璧な投票制度なんてない、と証明。
- 20c - アメリカのゲイルと、同じくアメリカのシャープレー
- “ゲイル・シャープレー アルゴリズム” は、 “安定結婚問題” の解法だ。
- N:N の合コンをするとして……、まず男性それぞれがもっとも希望する女性へ告白する。女性は告白してきた中でもっとも希望する男性だけをキープする。拒否された男性はそれぞれ次点に希望する女性へ告白する。女性も同上。これを繰り返すと、安定マッチングが生まれる。
- これは求職者と職場のマッチングや、ドナーのマッチングへ応用されているらしい。
所感
なんか数学っていうより社会学の話ばっかりだったなー……という印象。関数とか、幾何学とか、いろんな定理とかがどんなふうに生まれたのか、というのが “数学史” だと思ってたんだけど、そういう本ではなかった。 “数学者が歴史的出来事に関わった事例18選” って感じの本。数学史の本ではなくね?
- 実はぼくは “ローマ数字” と “アラビア数字” の名前がこんがらがってたんだが (どっちがどっちだっけ? ってなってた)、 “インド、アラビアを通じてヨーロッパへやってきた、計算しやすいアラビア数字” というフレーズのおかげで、しっかり覚えることができそうだ。歴史ってこういうとき便利。
- だけど、 “インドで完成してアラビアを経由してヨーロッパに伝わった” 数字なのだったら、 “インド数字” でよくね? って思った。
- なんか『スンマ』が好きだった。パチョーリさんが自分の授業のために自作した教科書の集大成。複式簿記のやり方が500年間変わってないってのも面白かった。
- ヤコブ・ベルヌーイの “大数の法則” については個人的に黒歴史がある。学校の先生に、 “最近よく職員室に質問しに来てて偉いな” って言われたとき、 “そんなコトないですよ別に。大数の法則でしょ” “うん? なんだそれ?” “(なんか勢いで言ったけど正直よく知らんな……) あれっすよ、普段見ないものをたまに見ると印象に残って、「よくあるな」って思うやつ” って適当なことを言ってしまったのだ。もちろん全然意味は違うので、黒歴史だ。ゴメン先生、ホメられたのが恥ずかしかったんだよ。
- 陪審定理 (投票者の数が増えるほど多数決による正しい決定の確率が上がる) は、逆にいえば、正しくない案を通したい奴ほど、クローズドな投票をしたがるのだと示していて面白かった。
- ナイチンゲールの “データの視覚化” とかって、なんかフツーのことだな……こんなのが統計学なの? って思っちゃったけれど、それって近代では日常に統計学が浸透しきってるってことなのかも。
- ベンフォードの法則が不正投票の根拠として使われているってのがよくわかんなかった。ベンフォードの法則が対象としているのは自然界のデータなんだろ? 得票数って自然界じゃなくね?