この話さ、俺が以前すこしだけ住んでた町が舞台になっているんだよ。何それ面白そう。読んでみるしかないぜ。というわけで読んだ。

すると、話の流れがワケわからなかった。調べてみたら、この話はシェークスピア『ハムレット』のパロディみたいなもんらしい。ようは見巧者を要求する話だったわけだ。そんならと『ハムレット』のあらすじを見て、それから読み返してみた。そのへんを絡めて、サマリと感想を書く。



『不在』はこんな話だ。
  • 牟礼(むれ)冬一郎さんが変死する。
  • 冬一郎の妻真由美と、冬一郎の弟夏郎治が結婚する。
  • 町の川原に冬一郎の亡霊が現れる。
  • 冬一郎の息子、秋人が町から消える。
  • 秋人には松田杜李子(とりこ?)という恋人がいるが、彼女には何も告げなかった。
  • 杜李子には鶏助という兄がいて、ふたりはむかし近親相姦していた。
  • 秋人には贄田継次という友人がいる。彼も何も告げられなかった。
  • (おそらく)秋人が、父の殺害に関わっていた人々を次々殺害していく。
  • 夏郎治が贄田の友人たちに、秋人捜索の依頼を出す。
  • 杜李子の父も殺される。
  • 杜李子が川で水死する。
  • 贄田が、秋人による復讐はまだ続くと考える。

『ハムレット』はこんな感じ。
  • デンマーク王が急死する。
  • 妻ガートルードと、弟クローディアスが結婚する。
  • デンマーク王の幽霊が現れる。
  • 王の息子ハムレットが、王の死はクローディアスの毒殺によるものと知る。
  • ハムレットにはオフィーリアという恋人がいる。
  • オフィーリアにはレアティーズという兄がいる。
  • ハムレットにはホレイショという友人がいる。
  • ハムレットが復讐を決意し、クローディアスと間違えてオフィーリアの父ポローニアスを殺害する。
  • オフィーリアが川で溺死する。
  • (まだ続くが『不在』とリンクしているのはこのへんまで。)

『不在』作中では明らかに語られなかったことも、『ハムレット』を知っていると補完される思いだ。たとえば、ホントに殺人事件は秋人が起こしたものだったのかな? みたいな考えも『ハムレット』知ってたら「そりゃ秋人だろう」ってなる。夏郎治がコソコソ秋人捜索を始めるのも、秋人を始末するための策謀だったんだろうな、と腹落ちする。そして最後にはみんな死ぬんだろうな、と。
逆に以下のような部分は『ハムレット』に存在しない要素で、いったい何だったんだろってなる。
  • 杜李子と鶏助の近親相姦。
  • 贄田とその周りの人間関係。とくに菜都美は存在感があったけれど何だったのか……。
あらすじなんかじゃなく『ハムレット』ちゃんと読めばわかるのかもしれん。(でも戯曲は読みづらい。)



ほんで作品の舞台についてなんだけれど、いや実に楽しめたよ。つーか著者さん、住んでたことあるんじゃね? 町についてリアルな記述が多かった。たとえば町の図書館についての記述ね。「北川辺中学の建物の一部を利用している北川辺ライブラリーは規模も小さく、蔵書の数もそんなに多くはない。」そうそうそうなんだよよく知ってんね!? あと贄田たちが埼玉大橋の幽霊を見に行く前にコンビニの駐車場で待ち合わせするシーン。「怖いほど広く閑散としたローソンの駐車場……」わかるわかる!! しかもあそこって、別に待ち合わせスポットってわけじゃなくて、あのへんで遊ぶ時待ち合わせるとしたら「まあ、あそこになるよね」って感じの場所なんだよ!

いろいろ楽しめる読書だった。