一ヶ月くらいにわたりクッソちまちま読んだから印象も曖昧だ。その上、短編集みたいなもんだからサマリも書きづらい。まいりましたな。サマリと感想を書く。



これは著者の紀行文で、各地に出かけた際の旅行日誌集の体裁をなしてる。

  • 作家たちの静かな聖地、イースト・ハンプトン。多くの成功した作家がここに家をもつ。なぜ? という著者の疑問にもっとも納得を与えたのは、「有名人はとにかく有名人と一緒にいるのが好きなんだ。」という答えだった。
  • 瀬戸内海の無人島、からす島への滞在。のほほんと釣りや読書をして過ごそうと思っていたが、苛烈な虫の歓迎にあってさっさと帰ることに。これはほんと分かる。野宿経験者は口を揃えて言うんじゃないか、最大の敵は虫だと。
  • 一ヶ月のメキシコ旅行。人々は皆言う、なぜわざわざメキシコに? と。なんか共感するよ、俺もルーマニアにバカンスに行ったとき何度も尋ねられた。「なぜわざわざルーマニアに?」著者は「そこに自分の足で行って、自分の目で見たいから。旅行てのはそういうものだ」と述べてた。俺の場合はただのなりゆき。
  • 香川県うどん紀行。いや、この人はグルメ文もイケるのかよ。村上春樹の文章は、平易で清潔感がある。そこが大好きなんだが、それに加えて「なんでもない普通のこと」を魅力的に描く技術に優れていることに気付かされた。こんなん読んだら次の日丸亀製麺に行くしかないじゃん。(行った。)
  • ノモンハン古戦場を訪れる。史実を読むとただ「**部隊はハイラルから国境地域まで徒歩で行軍した」と書いてあるだけだが、実際に現場に来てみるとその行為が意味する現実的なすさまじさを前にして言葉を失う。つまり、草原クソ広い。
  • アメリカ大陸横断。連れが遠目にヒスパニック系に見えるせいで、麻薬のトラフィッカーと疑われ何度もクルマを止められるって話がなんか印象的だった。
  • 西宮から神戸まで歩く。変わってしまった故郷について書くのは難しい、とのことだったが。ぷらぷら歩き、喫茶店でモーニング・サービスを食べ、ポケットの本を読み、開業したばかりのホテルラウンジでまともなコーヒーにありつく……なんて描写が素敵すぎる。俺も一日どこかへ歩いて、ホテルでコーヒーでも飲みたいなあなんて気になってくる。



最後の締めの文章にこんなことが書いてあった。

「旅行記が本来すべきことは、小説が本来すべきことと機能的にはほとんど同じ。こんなことがあったんだよ、こんなところにも行ったんだよ、こんな思いをしたんだよ、と誰かに話しても、自分がほんとうにそこで感じたことを、その感情的な水位の違いみたいなものをありありと伝えるのは至難の業。話を聞いてる人に『ああ旅行ってほんとうに楽しいことなんだな。僕も旅行に出たいな』と思わせるのはそれよりもっと難しい。でもそれをなんとかやるのがプロの文章なのです。」

そうだよなー。そして俺はこの人の文章大好きだし、それで心が落ち着いたりしてんだから、本当にこの人はすげーんだよな。