概要

あんまり関わりのない知人がいる。ビジネスマン然とした人で、ぼくとは結構タイプが違うのだ。その人と珍しく話す機会があったので、本のオススメを聞いてみた。

ぼくの読書の方針は雑読だ。自分が好きな本ばかり読むことを避けて、他人の好みの本も読む。だから、関わる機会が少ない人からオススメは貴重なんだ。

その人が “これ面白かったよ” と教えてくれた。サマリと感想を書く。

 

サマリ

  • 著者のウーキョン博士は、 “認知心理学で世界をよりよくする” のが目標。本書はその方法について解説する。
    • 彼女にとって “よりよい世界” とは、 “よりフェアな世界” だ。
    • ここでいう “フェア” とは “バイアスにとらわれない” ということだ。
    • つまりこの本の目的を言い換えると、バイアスがどうして発生するのか、バイアスがどんな害を生むのかを科学的に理解して、バイアスに対してより耐性をつけようぜ、というものだ。
  • バイアスが発生する理屈は、 “ヒューリスティックがメタ認知を歪ませて流暢性効果を生む” というものだ。
    • ヒューリスティック: 経験則による判断のこと。
    • メタ認知: 何かを “知っている” かどうかを “知っている” こと。
    • 流暢性効果: “わかりやすいものほど信じやすい” という傾向のこと。
    • つまり言い換えると、ぼくらの脳は経験則によって勝手にものごとを錯覚する、それがバイアスである。
  • 流暢性効果、 “わかりやすいものを信じちゃう” っていうのは、たとえば、以下のようなもの。
    • 頭の中で思い描けることを信じやすい (ダンス動画を見慣れると自分もダンスできると思っちゃう)
    • 自説を裏付ける証拠ばかり集めてしまい、反証を集めない (これは確証バイアスと呼ばれる)
    • 似ているものごとの間に因果関係を見出しがち (原因と結果の規模が同じくらいだと思いがち)
    • ほか、沢山あるから、下の “バイアスの例たち、ほか” にまとめる
  • これらの傾向によってバイアスが生み出されることを抑制するためにどうすればいいのか? 論理的にものごとを考えたり、実践をすりゃあいい。たとえば、以下のようなもの。
    • 実際にやってみる (だいたいの過信はこれで軽減される)
    • 反証を集める (これは確証バイアス対策)
    • 意見が異なる人と対話をもつ (説明を強いられると、自分の不理解に気がつく)
    • ほか、沢山あるから、下の “バイアスを抑制する方法の例たち、ほか” にまとめる
  • 以上のように、バイアスを軽減するためには、より多くの反証、より多くの統計データを探索したり、より多くの他人の意見を聞くことが有効。ただ、それを完璧にやろうとすると “マキシマイザー” になってしまい、生活の幸福度が下がってしまう。やはり “サティスファイサー” を目指し、幸福度を上げるべきだ。
    • マキシマイズ: いつまでも反証を探索すること。
    • サティスファイス: Satisfy と Suffice を組み合わせた造語で、探索はするが、ある程度満足したら探索をやめること。やはりバランスが大切。
  • ここまでの知識を活用することで、自分に対しても他人に対してもフェアにできるはずだ。だって、サティスファイスを実践しようとしたら、自分にも他人にも、平等に機会を与えて検証することになる。それは明らかによりよい世界を作る第一歩になるからだ。

 

バイアスの例たち、ほか

  • 名前が覚えやすいものほど印象がよい (覚えやすい銘柄の株式が買われやすい)
  • 統計よりも具体的な情報に影響されやすい (統計データより友達の話を信用しちゃう)
  • 思い出しやすいことほど頻繁に起こっていると思いがち (これは利用可能性ヒューリスティックと呼ばれる)
  • 同じ価値であっても、得るときより失うときのほうが主観的価値が高い。具体的には 1 : 2.5 くらい差がある (これはネガティビティ・バイアスとか、保有効果と呼ばれる)
  • トップダウン処理 (視界にふっと写っているものを、しっかり見ていないのに何かわかるのは、既存の知識でもって、外部からの情報を処理しているから、ということ)
  • 自己中心性バイアス (赤ちゃんは、自分の知識と他人の知識を分けて考える能力がないじゃん? アレのこと)
  • 未来に得る報酬の価値を不合理に割り引く傾向。不確定な未来の価値を割り引く傾向 (これはマシュマロ・テストの話だな。 “今、我慢” したほうが最終的な報酬が大きいのに、未来の報酬の価値をなぜか軽視して “今、我慢しない” ことを選んでしまうこと。遅延割引と呼ばれる効果だ)

バイアスを抑制する方法の例たち、ほか

  • 書き出してみる (脳内で信じ切っているものを書き出すと、過信が軽減される)
  • いつもと違うことを生活に取り入れる
  • 大数の法則を理解する (1人の友達の話より、統計データのほうが信用に値するってこと)
  • 平均への回帰を理解する (幸運、不運は続かないってこと)
  • ベイズの定理を理解する (これはただ、必要条件と十分条件って知ってるか? ってことだよね)
  • 未来の報酬を考えるときは、未来のことを具体的に想像する (遅延割引への対策)
  • 他人の視点に立ってものごと考えようね (突然道徳の授業みたいになったが、トップダウン処理とか自己中心性バイアスへの対策)

 

感想

  • これ、楽しめたなあ〜!
  • 自己肯定感も上がった。バイアスを抑制する手法として紹介されているものの多くは、すでに自分で編み出し済みのものだった。
    • “過信” を抑制するための “自分の考えを書き出す” 習慣は子どものときからある、というかそもそも1,000を超えるブログ記事を書いてきているし。
    • “雑読” の方針も “意見が異なる人との対話” に通じるところがある。
    • 部屋の片付けをするとき “保有効果” によって “捨てられない現象” が起こることを避けるために、まず持ち物を床に積み上げよう、という節を読んだときなんて驚いたよ。なんでぼくの習慣を知っているんだ? これ↓ね。
    • (2019-06-23)緑流おかたづけ術
    • ぼくの書くドキュメントは他人にとって読みやすいと評判がいい。 “自己中心性バイアス” を抑えることに成功しているのだろう。
    • 投資をするとき、相場の上下による目先の損得を無視することが、ぼくは得意だ。たぶん “割引遅延” への耐性がある。
    • “いつもと違うことを生活に取り入れよう” の節を読んでいるとき、まさに、 “GW だし新しい習慣でも取り入れてみようかな” とスタバ読書の真っ最中だった。ぼくは、バイアスを抑制する性格を天然で持てているかもしれない。

  • 反対の立場の人と対話することを拒みがちな知人がいるんだけれど、その人は確かにバイアスが強そうだ。自分が知っていることを常識であるかのように考えて、それを知らない人を見下す。それでいて、自分と立場が違う人に対して “あなたには偏見がある” と言うことがあるんだよな。自分の考えがフェアで、相手の考えが偏見である、という判断は難しい。簡単に “偏見” と口に出すことは、フェアに考えると出来るはずがないのに。思えばその人は、新しいことへの挑戦も拒む傾向にあるよ。アンフェアな例のひとつとして、読書中、よくその人のことが頭に浮かんだ。
  • 著者が “割引遅延” にとらわれた際のエピソードが面白かった。著者は、大統領選のときにソワソワして論文の執筆が手につかず困っていた。自分にとって重要な成果の内容が不確かな状態にあると、意思決定の能力がうまく機能しなくなる。そこで、 “割引遅延” の対策である “未来のことを具体的に想像する” を実践したんだ。 “バイデンが勝った場合、私は執筆する必要があるか? イエス。” “じゃあトランプが勝った場合、私は執筆する必要があるか? イエス。” “……じゃあ、執筆しよう” となったんだって。実践できそうで、面白かった。
  • “確証バイアス” って、名前は有名だから知っていたんだけれど、意味をきっちり把握してなかった。今回分かってよかった。
  • “大数の法則” も同じく、有名だから知っていたんだけれど、きっちり把握してなかった。
  • “自分にとってマイナスの出来事のほうが記憶に残りやすいよねー” っていうのは、誰もが言うことだよね。嫌な出来事がリフレインして、うまく眠れないときなんかは、 “これは脳の生存本能なんだよね、正常に動いて偉い偉い” と気持ちを落ち着けたりするものだ。それに名前がついていたとは驚いたよ。 “ネガティビティ・バイアス” ね。
  • いやぁ、楽しめた。大学の講義を模した編纂もわかりやすかった!