概要

こないだ矯正歯科医さんのプレゼンのスライド資料を読む機会があったのだよ。

その人と仲良くなりたかったので、スライド資料を読み込んで、話を合わせられるようにしようと思ったわけ。そしたら、いや、考えてみれば当然なのだが、必要な前提知識がいっぱいあった。それをなるべく調べて、その上でスライドを読んで、自分なりのサマリを作ったりしていた。

スライド本体はネット非公開なので、そのサマリを出すわけにはいかない。ただ、勉強した前提知識はみろりHPに残しておいてもいいかなーと思ったんで書く。

勉強した知識

Angle, Tweed, Merrifield の関係をざっくりと

まずは有名な3人を押さえよう。

  • Angle っていうのは Edward Hartley Angle さん (1855-1930) のこと。ワイヤーを使った矯正方法、エッジワイズ法を作る。この人は非抜歯の治療がメインだった。
  • Tweed っていうのは Charles Henry Tweed さん (1895-1970) のこと。この人は、「抜歯してもいいんじゃね?」って言う。そして "Tweed Triangle" という概念を唱えた。
  • Merrifield っていうのは Levern Merrifield さん (1921-2000) のこと。 Tweed さんの技術を継承して Tweed-Merrifield 法を作った。

Tweed Triangle と Tweed-Merrifield 法という謎ワードが出てきたので、それを次に見よう。

Tweed Triangle って何?

  • FMA : FMIA : IMPA = 25度 : 65度 : 90度 を理想とする横顔のバランスのこと
    • Frankfort Mandibular plane Angle - Frankfort 平面と下顎平面の角度
    • Frankfort Mandibular Incisor Angle - Frankfort 平面と下顎前歯の角度
    • Incisor Mandibular Plane Angle - 下顎前歯と下顎平面の角度
  • まあ、現代のアイドルの顎の形だと思えばだいたい合ってるんじゃね?

Tweed-Merrifield 法って何?

  • 上の Angle さんの項で触れたように、むかしは非抜歯の矯正が常識だった。が、それだと口元が突き出る「チンパンジー様顔貌」が発生していた。
  • そこで Tweed さんは必要に応じた (主に小臼歯の) 抜歯を唱えた。
  • それを継承して、 Merrifield さんが発展させて Tweed-Merrifield 法を作った流れだ。
  • 上述の Tweed Triangle を目指して矯正するわけだ。

Frankfort って何?

Tweed Triangle の説明にあった謎ワード Frankfort について。

  • Frankfort horizontal plane
  • 眼窩の下部の点と、外耳道の上の点を結ぶ平面のこと
  • これは Tweed さんは関係なくて、 1884年 Frankfurt の人類学の会議で定義されたもの

矯正歯科の文脈で Class II とか Division 2 っていう用語が出てくるんだけど何?

上の Angle さんが1899年に発表した「アングルの不正咬合の分類」のこと。上下の第一大臼歯の咬合関係がどんな感じか示す分類だ。これで症例を分類して、この人にはどんな矯正治療が合うかなーって検討するわけだな。

  • Class I: 正常
  • Class II: 下側が上側より遠心 (ここがおもろいんだけど、歯医者さんの文脈では「中心」は脊椎ではなくて前歯である。なので「下が上より遠心」というのは、上顎前歯が突出しちゃってる状態を指す)
  • Class II Division 1: 上顎前歯が唇側へ前突しているパターン
  • Class II Division 2: 上顎前歯が舌側へ傾斜しているパターン
  • Class III: 下側が上側より近心 (しゃくれてるイメージね)

矯正歯科の文脈で舌骨上筋ってのが出てくるんだけど何?

Tweed-Merrifield 法は顎の下にある舌骨っていう骨の位置も改善する。だからその周りの筋肉、舌骨上筋についてもよく話題になるわけよ。これはひとつの筋肉ではなくて、舌骨上筋「群」 suprahyoid muscles のこと。

  • 舌骨と側頭骨をつなぐ顎二腹筋 digastric muscle
  • 舌骨と茎状突起をつなぐ茎突舌骨筋 stylohyoid muscle
  • 舌骨と下顎をつなぐ顎舌骨筋 mylohyoid muscle
  • 舌骨とオトガイをつなぐオトガイ舌骨筋 geniohyoid muscle
  • これを図で見ると下顎と舌骨の関係がメチャわかる

表情をつくる口のまわりの筋肉も出てくるぞ

  • 口輪筋 orbicularis oris
  • オトガイ筋 mentalis
  • 下唇下制筋 depressor labii inferioris
  • 口角下制筋 depressor anguli oris
  • 大小頬骨筋 zygomaticus major & minor
  • 笑筋 risorius
  • 口角挙筋 levator anguli oris
  • これを図で見るとニッコリするための顔のシステムが分かっておもろい

筋肉だけでなく脳神経ってのが出てくるんだけど何?

ぼくたち一般レベルの興味では筋肉の話までできれば満足だけれど、矯正歯科医のみなさんは神経までいくぜ。以下の12種が、脳神経 cranial nerves だ。

  • CN 1 嗅神経 olfactory におい
  • CN 2 視神経 optic みる
  • CN 3 動眼神経 oculomotor 瞳孔とか
  • CN 4 滑車神経 trochlear 目をうごかす
  • CN 5 三叉神経 trigeminal 顔の感覚 → 本プレゼンの文脈では、これが舌圧によって刺激される、という話だった
  • CN 6 外転神経 abducens 目を外側へ動かす
  • CN 7 顔面神経 facial 表情とか → 本プレゼンの文脈では、筋反射によりこれが表情をつくる、という話だった
  • CN 8 内耳神経 vestibulocochlear きく
  • CN 9 舌咽神経 glossopharyngeal 味とか
  • CN 10 迷走神経 vagus のどとか
  • CN 11 副神経 accessory 首とか肩
  • CN 12 舌下神経 hypoglossal 舌を動かす

あれ? 顔とか首らへんの神経だけ? 手を動かす神経は?

うん、ぼくは「脳神経」って聞いて、脳から伸びてる神経全部のことだと思い込んだのだけどそれは違う。手とかを動かす神経は脳神経ではなく脊髄神経 spinal nerves のひとつだ。

  • 脳神経は脳から直接顔とかにつながってる
  • けど脊髄神経は、脳から脊椎の中の脊髄につながって、脊髄を介して末梢神経につながるシステム

所感

歯にワイヤーを取り付けて矯正治療するのって、こんにちのぼくたちには当然のことじゃん? それがまだ100年ちょいの歴史しか持っていないことを知って面白かった。

英語とか簿記と同じように、矯正歯科も、普段は触れないジャンルの話だ。まったく何も知らない状態での勉強は、マインクラフトで、何もない荒野に建築物を建てるときのような楽しさがあって良い。