概要
親愛なるルームメイトに勧められたので読んだ。
サマリと感想を書く。サマリはいつもどおり自分用の備忘録としてオチまですべて書くので、ネタバレ注意だ。
サマリ
主役の筧井雅也くんは大学生。大学受験に失敗し、望まぬ F ランク大学に入学したことで、周囲を見下し、そのせいで周囲にも見下されているしょうもない奴だ。こんなのが主役である時点で本を閉じたくなるけれども、すぐに転機が訪れる。
24件の殺人事件の容疑者、そのうち9件について立証され、死刑を待っている死刑囚の榛村大和さんから、筧井くんへ手紙が届く。筧井くんが子供のころ、榛村さんは近所でパン屋さんをやっており、ふたりは知己だったのだ。ほんで「9件立証とか言ってるけどそのうち1件は冤罪なのだ」と語る。
べつに「その1件の冤罪を証明してくれ」とストレートに頼まれたわけでもないのに、筧井くんは調査に乗り出してしまう。なんといっても榛村さんはサイコパス、シリアルキラーの見本のような、外面のよい、魅力的な奴で、筧井くんの鬱屈した心にするりと入り込みやがるのだ。
筧井くんは子供のころは優等生で、クラスメートからも尊敬を集めていた。が、どんどん落ちこぼれて鬱屈していたのだ。榛村さんは筧井くんに対して昔のような扱いをして、筧井くんのプライドをくすぐり、彼に昔のような堂々とした振る舞いを思い出させてくれる。
筧井くんはまんまと榛村さんのために調査を進める。過去の殺人者たちの資料をあたり、榛村さんの事件資料を調べ、榛村さんの過去を知る人たちに直接取材にまで行く。榛村さんが小学生のときの先生とか、榛村さんの親戚とか、榛村さんが少年刑務所に入ったあとに面倒をみた保護司の人とか、同級生、養父、など。もうとにかくめちゃくちゃ調べる。
正直、榛村さんがなぜ子供のころ近所に住んでいただけの自分に白羽の矢を立てたのかは分からないし、この調査が彼にとって何の得になるのかも筧井くんには分からない。そこがもやもやしていたのだが、あるときとんでもないことが判明する。筧井くんの母親はむかし、榛村さんが養子に行ったと同じ家の養子だったことがわかる。筧井くんの母親はそのとき子供を身ごもったこともわかる。
そう、これは死刑囚の父親に持ってしまった筧井くんと、死刑の前にふたたび息子と会いたい榛村さんとの、ハートフル・ストーリーだったのだ。
が、そんなのは全部大嘘で、
- 母親がそのとき身ごもった幼児はすでに死んでおり、
- 榛村さんは普通にただの他人だし、
- 榛村さんが手紙を出した先は筧井くんだけじゃないし、
- 自分のことを調べさせたのは “不幸な生い立ちについて知ってもらうのが他人を引き込む一番楽な方法” だったからだし、
- 1件の冤罪の件はべつに気にしてないし、
- てか冤罪じゃないし、
- じゃあその目的は何だったかといえば自分が牢獄の中にいるときも他人を弄び支配しておくことで、
- それが彼の趣味だった、
のだ。
感想
ひさしぶりに小説を読んだけれど、やっぱり読書と、読書感想文を書くことは楽しいな! 前回の読書なんて、半年以上も前のことだ……。
今回楽しめたのは次の数点。
- “主役がすげーしょうもない奴じゃん” とうんざりさせてから、すぐに榛村さんからの手紙を登場させてぼくを物語に引き込んだ、小説の構成。
- エグい表現が登場するのだけど、すべて過去のこととして、まるで新聞に記載されているような感じで描かれるので、エグい表現苦手なぼくでも読めた。
- 榛村さんの過去のエグい (↑) 所業を、筧井くんは調査のうちに知っていくのに、それでも榛村さんのことを憎からず思ってしまう描写が自然で見事。
- 榛村さんはパパだった! (ばばーん) の次に、実は全然違った! (ばばばーん) という2段階のどんでん返しがあった点。ミステリー小説はこれだからやめらんねーぜ……。
- と思ったらさらにエピローグでどんでん返しがある点。筧井くんは榛村さんの呪縛から逃れたと思ったのに、全然逃れられてなかったし、てかよりヤバいハマり方をしているじゃねーか。
楽しめなかったのは次の点。
- 小説のタイトルは “チェインドッグ” のままでよかったんじゃね?
これね。
“魅力的なシリアルキラー” の登場する小説で思い出すのは、まあ、ハスミンだよな。
この感想文↑に、 “生徒サイドもハスミンサイドもどっちも勝ち、って思えるようなラストだったのには感服” って書いている。今回の話でも、絶大なパワーを誇った榛村さんも、まあ結局は死刑になるわけで、真相にたどり着いた筧井くんサイドも榛村さんサイドもどっちも勝ち、って思えるようなラストだろう。このへんも読後感の良さにつながっているのかな。