誕生日プレゼントに本をもらったんで読んだ。あらすじを見てみると、謎の城に閉じ込められる脱出系ストーリーのようだった。あ、これ好きだわ、絶対好きなやつだわ。ICO



ケンタローくんって子が海岸でボーっとしていると、人攫いに遭ってしまう。そこは感情のない城人なる住人が闊歩する、四龍海城という謎の城であった。ケンタローくんと同じく拐かされた人々は城からの脱出を試みるが、謎の力に阻まれて外には出られない。外に出るには出城料が必要らしいが、出城料が何かはこれまた謎。まあ監禁っていうか軟禁状態で、城のなかはぶらぶらしてもいいしゴハンも出るからのんびりやればいんじゃねって感じだが、実はそうもいかない。のんびりしていると人々は次第に感情のエネルギーを失い、己もまた城人になってしまうからである。まあそれはともかく、ケンタローくんは城の中で友達ができる。同じく軟禁された少年で、タカキくんという。ふたりはお互いに重いコンプレックスがあったが、友情が強くなるにつれ「コイツとだったらがんばれる」と元の世界に戻るため奮闘するのである。やがてふたりは城の門番に、お前たちは出城料を得たからそれを支払って出ていいぞと伝えられる。狂喜乱舞するケンタローくんは出城を果たすが、タカキくんは出城料の正体に気付ており、城に残ることを決める。彼にそれを失うことはできなかった。出城料は誰かを大切に想う、その気持ちだったのだ。



まず駄目出しになっちゃうけれど、ケンタローくんの察しの悪さがちと異常だよな。いちおう、彼はタカキくんと外の世界に出るのを非常に楽しみにしておりはよはよ!! というテンションだった、とか、どうにも外に出るのに乗り気に見えないタカキくんをとりあえず外に出しちまえと思っていた、とかエクスキューズを考えることはできるけどさ。ふたりが道を違ってしまった理由はケンタローくんの察しの悪さとタカキくんが出城料について教えなかったことだから、どうにもつっかえが残るよなあ。
けどタカキくんが教えなかったことにはきちんと理由があって、それはケンタローくんを外に出したかったからだろう。出城料の正体を教えたら、ケンタローくんはきっと残ろうとするから、どうしても彼を外に出してやりたいタカキくんとしては秘めざるをえなかったのだ。タカキくん自身が外に出るか否かについては最後まで揺れてるところがあったのだろう。

四龍海城のボスはあの門番ジジイで、一日4回呪いのボイスを出し、龍眼の収集をしている。そもそもどうして四龍海城は人々の軟禁をしているんだ、さらってきて初めから呪いのボイスを聞かせまくり、城人にすればええやんと最初は思った。が、おそらく城人化した人間も、定期的にボイスを聞かせなければ城人状態を維持できないんじゃないかね。
軟禁は趣味だろう。龍眼の収集をするために閉じ込めている。けど実利もあるように思う。ただ閉じ込めるだけだと暴れだす人もいるだろうが、そこで出城料のことを一番最初に明かしたことが活きてくる。多分だけど人は、「こうしたら出れる」という指針を与えられると暴れるのよりその方法を試すことにエネルギーを向けるようになるんじゃなかろうか。今回の場合はその方法がバレたとしてもジジイの思い通りなわけで、よく出来ていますね四龍海城。

ケンタローくんだけが記憶を失って城から出たことについてはもうひとつ意見がある。この間の『日々の泡』のときと同じような意見だ。この小説で作者が書きたかったのは友情の芽生えと発展の過程だと思う。もしも小説が終わってもふたりの友情が続いていたら、それは過程を書ききっていないことになり、この論文は未完成ということになる。というわけで最後に切り捨てたんじゃなかろうか。科学実験が終わったら実験器具を片付けるように、友情を描く作業が終わったらその気持ちと記憶を全部片付けたんじゃなかろうか。
謎の城の正体やらなんかの描写、ネタばらしが中途半端なのもそれで説明がつく。研究し、描き出したいのは城ではないのだ。あっちゃこっちゃに話が脱線する論文が読みづらいように、スコープをひとつに絞らないでいると本当に描きたいものがおろそかになってしまう。
まあそんなところではないかと推測してる。

ところでこの本は単行本版が文庫本化されたものなんだけど、タイトルが変わってる。もともとは『四龍海城』だったそうだ。出版社の事情か何なのかそのへんは知らないけれど、このタイトル変更は失敗だよなあ。文庫本のタイトル、魅力ゼロだぜ。