この本は一日一食を推奨し、その効果を科学的な方向と経験談的な方向から書いている。知り合いが「緑ってこういうの好きでしょ」と紹介してくれたのだ。よくわかってんな。



参考になったのは以下のような箇所。

  • あらゆる動物実験において飽食状態よりも小食であるほうが生存期間が延びることがわかっている。エサの量を40%カットすることで寿命が1.5倍ほど延びるという結果が出たこともある。飽食の猿は毛が抜けて顔の皮膚がたるみ、老化が進んだという。デブが醜いのは実体験で知っている。
  • 糖尿病はあらゆる捕食器官が退化していく病気であり、進化の証ともいえる。飽食に慣れた身体に手足や感覚器官は必要ないので糖尿病性壊疽や糖尿病性網膜症というかたちで退化していくのである。つまり、飽食という急激な環境変化に対する適応と言える。
  • 生命力遺伝子のひとつであるサーチュイン遺伝子は空腹状態において活性化し、体内の遺伝子をすべてスキャンし、壊れたり傷ついたりしている遺伝子を修復する。主にコイツが一日一食推奨の根拠になっているようだ。
    • 我々の身体は飢えに強いが満腹には適していない。17万年に及ぶ人類の歴史はつねに飢えと寒さとの戦いであり、お腹いっぱい食べることができた時期はわずか100年にも満たない。遺伝子の最適化は長い進化の過程を経る必要がある。
    • 寒さの中においては内臓脂肪が燃焼する。内臓脂肪は1gが燃焼すると9kcalの熱を生産できる。ただし内臓脂肪が燃焼する際にはアディポサイトカインなる、自己と外敵の区別がつかない免疫物質が発生し、血管の内皮細胞を傷つけてしまう。これが原因で動脈硬化が起こる。内臓脂肪の多いメタボが動脈硬化をおこしやすいのは、燃える内臓脂肪が多く、それに比例してアディポサイトカインが多いため。
    • 男性は内臓脂肪型であるのに対し女性は皮下脂肪型である。皮下脂肪型である女性が寒さに耐える方法は、内臓脂肪の塊である赤ちゃんである。飢えや寒さという危機状態における妊娠率はとても高いため、動物のメスは冬眠時にも生き延びることができる。このメカニズムが、先進国の出生率が低く、発展途上国で人口爆発が起こる理由。
    • 脳細胞が復活しないというのは定説だが、シナプスは新たに作られることがある。ただしそれは飢えと寒さに晒されたとき、つまり危機の状態におかれたときに限られる。
    • 脳が疲れたとき糖分を摂るという言説があるが、そもそも脳が疲れることはない。むしろ、お腹が空いているとき脳はもっとも活発に働く。
    • 脳が糖分しか利用できないのは確かだが、脂肪もタンパク質もデンプンも、体の中ではブドウ糖に変わり、脳に届けられるようになっている。甘いモノを食べなくても血糖値は十分上がるので、脳のためにわざわざ糖分を摂る必要はない。
    • 胃潰瘍で入院すると絶食と点滴をなされるが、これは点滴で潰瘍を治しているのではなく、絶食によって身体の治癒力を引き出しているのである。
    • <お腹が鳴るのは空腹を知らせるサインだが、そのときこそサーチュイン遺伝子が発現している状態である。つまり、腹の鳴っているのが体中の壊れた箇所が修復され若返り健康になっている期間の証といえる。こうしたイメージの付与は俺みたいなタイプには非常に有効だ。
  • ……と、散々飢えの素晴らしさを並べたが、実際に飢餓状態になるわけでなく、適度な飢餓を身体に与えるのが一日一食である。
    • 一食は夕食にするのがおすすめ。食事をとると血糖値が上がり眠くなる。眠くなったら眠るのが自然な姿である。昼間眠れない人は昼食を避けるのが自然。
    • がつがつ食べる必要はない。生命力遺伝子のひとつである倹約遺伝子は飢餓状態においてよく働き、栄養効率を非常によくする。
    • バランスの取れた食物とは、我々の身体を構成している栄養素と同じ種類の栄養素が、同じ比率で含まれているものといえる。こういう考え方を「一物全体」という。牛や豚を一頭まるごと食べるのがよいということだがそれは非現実的なので、魚をまるごと一尾、皮ごと骨ごと頭ごと食べるのがよい。野菜についても一物全体の考え方は同じで、葉ごと皮ごと根っこごと食べるものである。かつての日本人は誰もがこうした完全栄養を意識することなく取り入れており、庶民の当たり前の食事であった。そして江戸時代元禄期以前の日本の食事は、アメリカ政府の調査したマクガバン・レポートによって高く評価されたことがある。
    • 魚がよい理由としては、サイズの他に脂の性質がある。牛や豚など恒温動物の脂肪は室温ではラードになり固まってしまう。そうした脂は動脈硬化の原因となる。一方変温動物である魚の脂は冷たい海水の中でも固まらないので血管内で固まる心配はない。それどころか血管を詰まらせる悪玉コレストロールと置き換わることができる。こうした脂肪はとくに青魚に多く含まれる。
    • 完全栄養食品の例としては、ミルク、卵がある。赤ちゃんがミルクだけで育つことができるのはミルクが完全栄養であるからだし、卵一個の中には鶏一羽ぶんのもとになるあらゆる栄養素が含まれている。また、それらを原材料としたクッキーも完全栄養食品といえる。著者は干しブドウやナッツの入っている、全粒粉の甘みを控えたクッキーが気に入りだそうだ。
    • 果物の皮には傷を治す創傷治癒作用と抗酸化作用があるので、林檎や梨、柿、ブドウなどは皮ごと食べるもの。
    • 骨中のカルシウムを増やすには、運動によって骨に負荷をかければよい。宇宙飛行士が我々の何倍もカルシウムを摂っているにもかかわらず骨粗鬆症になるのは、重力の影響下で運動していないためである。なお老人の骨がもろくなるのは、骨を強くして筋肉をたくましくするタンパク同化作用をもつ性ホルモンの分泌が減少するからである。
    • カフェインはアルカロイドの一種である。アルカロイドとはニコチンやコカイン、モルヒネなどにも含まれている麻薬成分で、副交感神経に対して刺激作用がある。お茶に含まれるタンニンも毒といえる。革をなめすのに使われることもあり、つまり頑丈なタンパク質を変性させる性質があるからである。食後にお茶を飲むと満腹感がやわらげられるのは、タンニンが消化管の粘膜を変性させて消化吸収障害が起こるからである。烏龍茶が油っこい中華料理によくあったり、お酒と一緒に飲むのも同様の理由。
    • いっぽう麦茶やごぼう茶はカフェインが入っていない。ゴボウのポリフェノールはあらゆる植物の中で最強のもので、すぐれた抗酸化作用をもつ。しかもゴボウにはカフェインのような中毒性もない。
    • ごぼう茶の作り方は、1.ゴボウを水洗いして皮付きのままささがきにする。2.そのまま新聞紙の上に広げて半日天日干しにする。3.フライパンで油を使わずから煎りする。4.煙の出る寸前で止め、急須にいれて沸騰した湯を注ぐ。
  • お腹が鳴る原因は空腹期収縮である。いつまでも食事がこないと、小腸の入り口にある食べ物センサーがモチリンという消化ホルモンを出し、胃を収縮させる。これは胃の中に残っているかもしれない食べ物を小腸に送ろうとする作用のことで、この動きがお腹グーグーの正体である。
    • モチリンで胃を絞っても食べ物が流れてこなければ、胃袋がグレリンというホルモンを出す。グレリンは脳の視床下部に働いて食欲を出させ、同時に下垂体に働き成長ホルモンを分泌させる。この成長ホルモンは若返りホルモンともいい、つまり、腹がグーグー言っているとき我々の体は若返っているといえる。前述したサーチュイン遺伝子もこのとき効果を発揮しており、体中の遺伝子をコイツがスキャンし損傷箇所を修復している。
    • それでも食事が入ってこないと体は内臓脂肪を分解して栄養に変えてくれる。なお運動したとき優先的に使われるのは内臓脂肪ではなく筋肉内のグリコーゲンなのでスポーツのあとは低血糖になてお腹がすく。
    • 食事をとって満腹になってくるとレプチンが分泌される。食欲を抑える働きからやせホルモンとも呼ばれる。ダイエットのリバウンド現象というのは、満腹状態が常態化しレプチンの効きが悪くなった人が突然ダイエットし、レプチンの分泌量が急激に減って食欲が抑えきれなくなることをいう。
  • いわゆる「おやじ臭」はノネナールという。肉食やメタボの人に多い皮脂が酸化することで発生する。肉食をやめると体臭がなくなるのは実体験で知っている。
  • 体臭、皮脂、ニキビの主な原因はアンドロゲンという男性ホルモンの一種である。性ホルモンはコレステロールからできるので、一日一食で血中コレステロールが減るとアンドロゲンも減って肌はキレイになり体臭はなくなる。
  • ストレスがあると毛がぬけるのは、ストレスによって多くなったアンドロゲン量が転換酵素で薄毛ホルモンに変わり、結果として大量の薄毛ホルモンが現れるからである。それの元となるアンドロゲンが減ると薄毛も予防される。
  • 日本では、戦後のある時期までは、旧厚生省が健康優良児制度を施行し太っている子供を表彰してきた歴史がある。近年は小児肥満を助長することになるという理由で廃止された。知らなかったが、ドン引きものの制度だな。
  • 本来、食事は空腹でお腹がグーッと鳴ったら食べればよい。ところがお腹がすいていなくても、時間がくれば習慣で食べているという人が、圧倒的に多いのでは。
  • 肉食の動物が獲ったウサギに塩をふって食べることはないし、草食の動物が草を食べるときに、ドレッシングをかけることはない。なぜか。自然に存在する動植物に含まれている塩分だけで、十分に体を維持できるからである。



といった感じで参考にできた点の多い本だったけど、参考にしなかった点もまた多い。たとえば著者は甘いお菓子の摂取に厳しく警鐘を鳴らしているが、俺はお菓子が大好きなのであまり見向きしなかった。俺は、こういった本……広義の啓蒙本といえると思うが、そういうタイプの本は自分が好きなことをさらに気持ちよく行うために使うことにしており、自分が好きなことをやめるためには使わない。今回のケースでは、俺は節食という行為が好きなので、節食に関するポジティブな知識を得ることでそれをさらに気分よく行うために使った。逆に自分にとってあまり嬉しくない情報については流し読みをしておいた。自分にとって良くないことは何かといえば、人に「良くない」と言われたことではなく、自分が「良くない」と身を持って感じたことだ。

最後にこの本で気に食わなかった部分をすこし。一日一食を推奨する理由やメカニズムに関してはとてもよく書かれていたのだが、本の後半を占めている、食事外の生活に関する部分は蛇足だろう。一日一食に関する箇所は淡々とデータや解説を並べる構成になっているのに後半は妙に押し付けがましい。これがなければ一日一食推奨のメーンテキストという扱いができただろうが、これじゃあな。