その夜、親愛なるルームメイトと俺は宅飲みをしていた。




緑「(バリィ!)これだよこれ。ポテトチップスの大袋があると、宅飲み気分になれるよな!」

ル「わかる。」

緑「そらHeinekenを開けてやるぜ。(カキンッ)ヨーロッパに住んでたころは、夜な夜なバーでこういう瓶ビールを片手に喋りまくったものだぜ。」

ル「ヨーロッパに住んでたころって私も言ってみたいなあ……。」

緑「洋画大好きだもんねえきみ……。けれどきみも住んでたことあるじゃん。二週間くらい。」

ル「旅行です。」

緑「五、六回あるじゃん。」

ル「旅行です。」

緑「ぷはー。んー、久々にふたりきりだし、何か議論を戦わせようぜ。またぼくを感心させてくれ。」

ル「ぷは。や、謎のハードル上げですけど。何について?」

緑「そうさな。文学って何だと思う?」

ル「文学か……。」

緑「うんうん。(キラキラ)」

ル「期待の眼差しがすごい。」

緑「それは余儀ない。」

ル「ん……。何なのでしょうね? 緑さん的には?」

緑「ぼく的には、文学はメタファーのことだ。」

ル「うん?」

緑「ある種の知識って、実体験なしには伝わらない。個人の哲学とか、思想とかね。そういうものはそれをそのまま説明しても伝わらない。だから物語が必要になるんだ。書き手は物語を使って読者に自分の体験を追体験させて、結論である自分の哲学まで読者を導く。それを作る技術が文学だね。」

ル「うん? どうしてそのまま説明しても伝わらない?」

緑「山の頂上から見た景色は、登山中には見ることができない。」

ル「ああ、そうですね。んーでも……。」

緑「お、お、納得いかない? きみはどうだ?」

ル「すごく嬉しそうだ……。ええと文学とは、のほうですけど。」

緑「うん?」

ル「文学は、同じものを、文字で書いたもの、かな。」

緑「うん? っと、もうちょい詳しく。」

ル「緑さんみたいに説明うまくできないですけど。共通のものを、文字を使って表したもの、というような。」

緑「ああー!! わかった、わかりました。」

ル「わかりましたか。」

緑「つまり、まずひとつの表現対象があり、それを表現した多数の媒体がある。たとえば神への信仰。それは絵画で表現されたり、踊りで表現されたり、祭祀で表現されたり……あるいは、文筆で表現されたりする。共通の表現対象を表現する表現媒体の中で、文字で書く表現方法のことを文学という、ってことか!」

ル「そんな感じですね。」

緑「ああー! んん……? いやこれ、なるほどな……。待てよ、これはすごいんじゃねーか? 何がすごいって、ぼくの結論をも包括しているところだよな……。」

ル「(ゴクゴク)」

緑「ぼくの定義は表現対象を思想や哲学に限定しているところに若干の狭量さが感じられるのは確かだったもんな。だがきみの定義でいくと、たとえば推理小説ですら……。」

ル「おもしろいもの、という共通対象を文筆で表現したもの、というふうに落とし込めますね。」

緑「親愛なるルームメイトよ。さすがである。」

ル「うん?」




文学とは共通の対象を表現しようとする試みの中の、文字を使う分野のこと。