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タイトルは知ってるんだけれど、読んだことはねーっていう本、いっぱいあるよな。『赤毛のアン』もそのひとつ。サマリと感想を書く。
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カナダはプリンスエドワード島。マシュウとマリラのクスバート老兄妹は、人手のために孤児院から男の子を養子にもらうことにした。トシのせいか農作業がツラくなってきたからだ。しかし送り込まれてきたのは赤毛の女の子、アンだった。なんか手違いがあったみたいだ。とっとと送り返そうという話も出たがいい子っぽいし可哀想だから結局は引き取ることにする。まあ男の子はバイトを雇えばいいでしょ!
マシュウは寡黙な男だが実際はじめっからアンのことが気に入っており、何があっても彼女の天真爛漫さと想像力を愛した。だが叱るということをまったくしないので、そこはマリラがフォロー。いやまあ性格的に、手放しでホメたりするのが苦手なのだが。アンはなかなかホメっぱなしということをさせてくれない子であった。生粋のトラブルメーカーなのである。想像力が豊かで行動的な奴なんてそんなもんだ。悪口を言ってきた奴には容赦なくキレて石版でぶん殴ったり、茶会で間違って酒を出したり、遊びの最中に屋根から落ちたり。トラブルを起こすたびにマリラは「そろそろやらかす頃だと思ったよ」とため息をつく。だけど近所のリンド夫人が言うように「かあっとのぼせてもすぐにさめる癇癪持ちにはずるいのやうそつきがいない」ものだ。アンはどんなトラブルも持ち前の正直さと想像力で乗り切った。学校でも人気者。成績優秀な男の子に張り合って勉強もめっちゃしたから、クイーン学院にも主席入学してのける。そして何より、自分を引き取り、影に日向に支えてくれたクスバート老兄妹を愛し、その恩に報いるためいつも頑張っていたのだ。マリラも口では厳しいことばっかり言うが、実際アンを心底愛し、こんなに一人の人間を愛することは罪にならないだろうか、と神に問うほどだった。
アンはクイーン学院でとびきり優秀な成績を納め、奨学金をとって進学する権利を得た。が、近頃調子を崩している養父母のことが気がかりだった。そんな矢先、マシュウが心臓発作で亡くなってしまう。アンは進学をやめて地元の学校で教鞭をとることに決めた。そして自分が何よりも好きなこの家でマリラと一緒に暮らしていくのだ。
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何この子育て物語。めちゃめちゃ単純にいい話だった。アンがクイーン学院の下宿にいってしまうのを悲しみつつもそれを表に出せないマリラが描写されるとこなんか、あやうくうるっとくるところだったぜ。印象的なくだりを以下に。
ツンデレのマリラおばさん
- ツンデレなんて俗っぽいワードを使うのが申し訳ないくらいの正道で徹底したツンデレ。それは深い愛と優しい厳しさに満ちた完璧な母親の姿だった。マジでぐっときた。俺は早いうちから親元を離れているからこの程度で済んだが、いまだ親と暮らしている人が読んだらついついカーネーションでも贈りたくなっちまうんじゃないだろうか。
オチ担当のマリラおばさん
- アンが地下室にひっくり返したロウソクの皿を翌日マリラが発見したり、マシュウおじさんが人生きっての大作戦を試みているパラグラフの「一方そのころ」でマリラがいつも通り家の換気をしていたり、つねに実際的で現実的なマリラおばさんが、文章上のオチ担当になっているのがたまらない。こういう、文章構成ツッコミも存在するんだなあと感心させられちまった。
俺には絶対発想も書くこともできない一節
- 「なんてまあ、アン、あんたは大きくなったんだろう!」とマリラがアンの成長に驚くシーン。小さかったころと同じくかわいいことは変わらないが、マリラは何かを失った気がして妙に悲しくなり、冬の夕闇の仲にたったひとり座って泣き出してしまう。
- なんとも言い難い。痛ましいのとも、感動とも違う、うるっとくる気持ちがする。親心か。俺には逆立ちしても書けない。
かあっとのぼせても、すぐさめるかんしゃくもちには、ずるいのや、うそつきがいない
- サマリにも書いたが、アンを象徴する一節。こういう自分にも通じる文章にはついつい反応しちまう。俺はアンとはまったく違うが、まっすぐなところはひけを取らないぜ。そう、俺たちはずるくもなければうそもない。
子供の自分がされて嬉しかったことを、いつか子供にしてやることを誓うアン
- 俺も同じことを誓ったので共感。子供には、ついつい偉ぶった教訓を垂れてしまうものだ。でも本当に小さな俺が望んでいたのは、同じ目線で正々堂々と話をしてくれる大人だ。それを忘れないようにしたい。
270ページはコメディ
- ちょっと全体的に面白すぎて書けない。
基本的にアヴォンリーの連中は毒舌キャラで面白い
- アン「分別があるってたいしたことにはちがいないけど、あたしはそうなりたいとは思わないわ。リンドの小母さんは、あたしがそんなに分別がつく心配はないって言いなさるけど」
- 分別がつく心配はないは笑う。
とうとう地の文までコメディに参加してくる
- 「何かわくわくすることがひらめいたら、すぐそれを出さなきゃいけないわ。ちょっと待って考え直したりしたら、すっかりだめになってしまうわ。小母さんもそんな感じがしたことないの?」いや、リンド夫人にはなかった。
- いや地の文お前が答えるのかよw
自重しない地の文
- 「自分のことばかり考えすぎず、どうすれば奥さんがいちばんよろこびなさるかということを考えるんです。」マリラは生まれてはじめてりっぱな、奥行きのある注意を吐いた。
- 地の文自重しろw
多いわ! マリラの魅力と、アンのコメディ体質に引っ張られる楽しい読書だった。