柳田國男さんが1910年に発表した『遠野物語』を、京極夏彦さんが現代語訳 + 章の順番をテーマごとに入れ替えたりして読みやすくしてくれたものみたい。サマリと感想を書く。



遠野郷出身の佐々木さんが話す、故郷のお話。それがなんとも面白かったんで、柳田さんがそれを書き留めたのが『遠野物語』だ。遠野郷ってのは、附馬牛、土淵、松崎、青崎、上郷、小友、綾織、鱒沢、宮森、達曽部の10村からなる風光明媚なところではあるんだけど、聞くだになんともヤッバイところみたいだ。たとえば……
  • 山には基本的に山人っていう連中が棲んでる。やたらデカい人形の謎クリーチャーどもで、毎年大勢の女子供が連中に攫われる。
  • あと遠野郷の河川には河童がたくさん居る。普通河童は緑色なんだが、遠野郷の河童は真っ赤だそう。河童は人を孕ませる。そうして生まれた子供には水かきがついていたりするので、みんなで叩き殺す。
  • 有名な妖怪である経立(ふったち)もたくさんいるようだ。とくに六角牛山には「六角牛の猿の経立が来るぞ」という脅し文句が存在するほど多く、人に石とか投げてくるんで大変みたい。まあ猿ならその程度だけど狼の経立とかは結構ヤバくて人々に恐れられている。
  • お化けとか幽霊、死者の起き上がりはめっちゃ出現する。まあ一部は狐の仕業らしいが。
  • 天狗森ってとこにはその名の通り天狗がいる。顔が赤い連中で、ちょっかいを出すと数日後手足を引き抜かれてぶっ殺されてしまう。
  • 山神っていう連中もいて、こいつらも顔が赤い。
  • ヤマハハと呼ばれる山姥みたいなものもいたらしく、よく娘を追い回して食ってたようだ。だけどヤマハハについては「昔々」で始まり「コレデドンドハレ(めでたしめでたし)」で終わるお伽噺の類らしいから安心だな! いやまて、それ以外はいんのかよ。
魔境かよ。バケモンだけじゃなく人々に祀られている神様もたくさんいる。座敷童衆はもちろん、旧家に祀られているオクナイサマとか、獅子舞みたいなゴンゲサマ、子供と遊ぶのが好きなカクラサマ、男性器を模した像で祀られるコンセサマ(なんだそれ)、娘とまぐわった馬が怒り狂った親父さんに首を切られたあと娘を連れて天に登り神となったオシラサマ(なんだそれ!)などなど。
そしてキメ台詞。願わくはこれを語りて、平地人を戦慄せしめよ!







いやあ読みやすかった。巻末にオリジナルの『遠野物語』も載せてくれてるんだけど、うん、まあ、100年という月日を感じさせる読みづらさだったぜ。やっぱし文学作品ってのは50年周期くらいで現代語訳をすべきだよな。今回とっても楽しめたから、余計にそう思うぜ。しかも今回は、章の順番を入れ替え世界に浸りやすく編纂してくれてたんでナイスな現代語訳だと感じた。山中の郷の説話集だから、なんか望郷的な気分になれてよかった。故郷が遠野と似た諏訪の山中だからなおさらな。諏訪にはバケモンはいなかったけど。

あんまりバケモンバケモンした話ではないんだけれど、三人の女神姉妹がそれぞれ宿っているという、早池峰山、六角牛山、石神山の話が結構好きだった。これらは遠野郷を囲む山々だから、遠野郷は神に囲まれた土地でもあったって話。これらは現代もふつーに存在する山々なんで、なにかの折に訪れることがあれば思い返すことにしようぜ。

なお東方好きの俺としては『遠野物語』といわれて浮かぶのが『遠野幻想物語』だったりするのだが、ちゃんとマヨヒガに関する話も含まれていたぜ。山中にある不思議な家マヨイガ。