最近小説ばっかり読んでたから、違うジャンル読もうと思って選んだ。サマリと感想を書く。



この本の目的は?
ゲーム理論によって紐解かれる、日常の中に潜むナッシュ均衡という落とし穴。そこから抜け出すための戦略を連ねること。先に言っとくと、本を通してその「戦略」には大して読みごたえを感じなかった。だからサマリはゲーム理論に関することやその他の豆知識が中心になる。

ナッシュ均衡って?
もし相手と一緒に協調を選べばふたりとも利益を得られるが、自分は協調を選んだのに相手が背信を選んだ場合自分は損をし相手は大きな利益を得る……しかしお互いが背信を選べばふたりとも損をしてしまう。そんな状況において、「相手が背信を選ぶかもしれない」という思いからふたりともが背信を選ぶことから抜け出せなくなる状態のこと。この本の目的はつまり、こんな状況で、お互いに協調を選べるようにする戦略を発見することだ。

具体的にはどんなナッシュ均衡があんの?
  • 囚人のジレンマ。ふたりで黙ってれば罪はとっても軽くなるが、相手が喋れば相手は罪を免除され自分だけでかい罪を負わされる、みたいな状況。相手が黙ると信じられなければふたりとも喋る選択をしてしまう。
  • 共有地の悲劇。同じ牧草地を使う遊牧民たちがおり、そのうちのひとりが牛を増やすと儲けが増えるが、全員が牛を増やすと牧草地は使えなくなってしまう、みたいな状況。ほかの遊牧民が牛を増やさないと信じられなければ自分も増やしてしまう。
  • チキンゲーム。映画『理由なき反抗』のチッキー・ランというゲームが由来。クルマを崖に向かって走らせ、先に飛び降りて落下をまぬかれたほうが敗者となる、みたいな状況。この場合ナッシュ均衡の先は死。
  • ボランティアのジレンマ。誰かが集団のために損をしないといけないが、誰もやらないと全員が大きな損をする、という状況。ナッシュ均衡は集団の崩壊。
  • 両性の争い。それぞれ違ったことをしたいが、どちらも一緒にやりたいと思っている状況。ナッシュ均衡はふたりとも何もできない状態。

戦略はどんなのがあるの?
状況の種類によって具体的な方法は変わってくるけど、たとえばふたりに資源を分配するとき、どちらかに分けさせてもう一方に選ばせるというのが両者にとって効用が最大になるので有効。これはミニマックス(損の最小化)という原理を利用している。あるいは囚人のジレンマみたいなときはちゃんとお互い連絡取り合うとか、第三者を巻き込むとか。または信頼を築くこととか。

面白かったところを箇条書きに
  • マリブ・サーファー問題。生活保護問題、共同体へのタダ乗り問題のことをそう呼ぶ。ロサンジェルス西、マリブの海岸に集まる人々にそういう連中が多いため。
  • 南米ティエラ・デル・フエゴのヤガン族にはマミーラピナタパイという言葉がある。1993年版ギネスブックに最も圧縮された言葉として登録されており、意味は「どちらも望んでいるのだが、どちらも自分ではしたくないことを、相手がすると言ってくれるのを期待して見つめ合う」。
  • 『サイエンス84』という雑誌で行われた読者参加型実験がある。「20ドルか100ドルか、欲しいほうをはがきで送ってね。100ドルのはがきが20%以下なら、全員が欲しいといった額を手に入れる。でなければ全員ゼロ。」結果は35%だった。
  • じゃんけんはジレンマを打ち破る方法のひとつ。グーチョキパーには国ごとに呼び方がある。日本で見かけた「村長、虎、村長の母」が筆者のお気に入り。どこの日本ですか?
  • じゃんけんみたいなトカゲ。カリフォルニアワキモントカゲ。雄はのどの色がオレンジ、黄色、青のどれかで、それぞれ雌と交尾するための戦略が違う。オレンジは攻撃的だが巣を留守にしたときこっそりやってきた黄色に雌をとられる。だが黄色は油断なく巣を守る青にはつけ入るスキがない。青は攻撃的なオレンジにやられてしまう。ゲームの色違い敵かよ。
  • 「信頼というのは難しい! サー・ウォルター・ローリーが自分の上着を脱いでぬかるみの上に拡げ、エリザベス女王の足が汚れないようにしたと伝えているが、それは信頼あってのことだ。私も試してみた! 雨の日にロンドンの街中で、女性が水たまりを渡るとき上着を拡げてみた。女性は猜疑の目をして避けていった。エリザベス女王とは違い、みんな私の善意を信じなかった。信頼とは難しいのだ。」ヘタクソな具体例は逆に文章の説得力を落とすという例。この本はゲーム理論を日常と結び付けて考察するのが主題だから具体例が多くなっちゃうのはやんぬるかなではあるが。
  • 人間にはたいてい信頼しようとする生まれながらの欲求がある。生まれて一年でこの欲求の強さが決まり、その強さは母親の態度に左右される。母親が予測が付きやすい、愛情に満ちた応対をすれば信頼の感覚が育ち、でなければ不信感が育つそうだ。
  • 一部の動物は相互利他的行動をする。チスイコウモリは血を吸えなかった他のコウモリに血をわけるし、もらったコウモリはそれを覚えていてお返しをする。チンパンジーは血縁関係がなくても食べ物を分けるし、見知らぬ人が作業を苦労してやってると、自分のしてることをやめて手伝ってくれる。なごむ。
  • まず協調し、あとは相手の戦略と同じことをする。相手が協調で返せばまた協調し、背信すれば背信する。という戦略はとっても有効。
  • 係争分の等分という考え方について。ひとりが全部自分のものだと主張し、もうひとりが半分は自分のものだと言っているときは75:25に分けるというもので、説明は以下のようなものだったがよく理解できなかった。どゆこと?
    • 資源の半分については、一方が自分のものと言っているだけで争いがない(だからその人のところへ行く)。残り半分については争いがあり、そのいちばん公平な分け方は、この残り半分を五分五分に分けることだ。



全体的にあんまりクる読書にはならなかった。豆知識はいくつか仕入れられたけどね。