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我が家には学級文庫というスペースがある。ルームメイトたちが好きに本を置いていき、好きに持っていける棚だ。そこにムーミンがあったんでちと読んでみた。恐ろしく平易な文章で、2日かそこらで読み終えた。訳は下村隆一。
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ある晩ムーミン谷に黒い雨が降り、ムーミンファミリーはじゃこうねずみさんから地球滅亡の到来と、宇宙は空のように青くなく真っ黒で、地球はちっぽけな星だと教えられる。ムーミントロールとスニフはすっかり怯えてしまう。元気づけるため、ムーミン夫妻は子供たちを天文台へ送りだす。世界がほんとうにじゃこうねずみの言うように「真っ黒で、地球はちっぽけな星」なのか確かめて来いというわけだ。ムーミントロールとスニフは川をいかだで辿りおさびし山の天文台を目指す。途中でスナフキンと出会い、3人は連れ立って天文台へ辿り着く。そこで彼らは4日後に彗星が地球に落下することを知る。一行は早くそのことを皆に知らせるため帰途につく。彗星の接近による熱で変わり果てていく大地と、異常気象に道を阻まれる道中、かれらはスノークの兄妹やヘムルと会い一行に加えていく。ようやっと帰り着いたムーミントロールたちは洞窟に避難し、ことが過ぎ去るのを待つ。激突するかに思われた彗星はすんでのところで軌道をそれ、地球は滅亡をまぬかれた。
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なんというめでたし。思うにこの物語は、事件や出来事のなりゆきを描くのが目的ではまったくなく、ムーミン谷という世界観を描くのが目的なのだろう。その人がどんな人なのか確かめる方法は、その人が何かの事件や出来事にどう反応するのか観測することだ。それと同じように、作者はムーミン谷というキャラクター(比喩的な意味で)が彗星の到来という事件にどう反応するのかを描いたのだろう。それにより、読み終わる頃には、ムーミントロールやムムリク、ヘムルにスクルットといった種族名が何の前置きもなく出てくるような物語なのに、俺たちはこの世界を「こういう世界か」と直感的に認識することになる。
ところで俺はこの話を以前映画で観たんで知っていた。原作と映画ではわりに少なくない部分が変更されていて驚いた。まず、あのさ、ミィがいないんだが!?
映画ではカットされているシーン
映画では変更されているシーン
ところで子供たちが天文台への旅へ出かける動機が、えらく理にかなっているよな。よくわからなくて怖いので、わかるために旅をしよう。そういった旅は辛く厳しい側面もたくさんあるけれど、友達ができるし、我が家が急に愛おしく思えてくるものだ。こんな会話の通りに。
「ムーミントロールは、自分のいったこともないよその土地が、どんなにすてきかってことばっかり、前には話してたじゃないか」
「そうさ、前にはね」
気に入った台詞はいくつかあるが、ほとんどスナフキンのものだった。なんだってこのムムリクはこんなにクールなんだ?
「こまかいことをいうなよ。そのぐらいのちがいなら、ぼくたちの計算では、合ってるというんだ」