先回の『ビラヴド』と比してめちゃめちゃ読みやすくて、まばたきしてる間に読み終わっちゃったぜ。サマリと感想を書く。



ラゴスさんは北方の出身だが、南方大陸にあるという宇宙船の遺跡を目当てにしている旅人だ。だが世の中物騒なのでひとり旅は心許ない。というわけでいろんな人たちと一緒に旅をすることにしている。
牧畜民族の移動に加わり、その最中に彼らの集団転移(テレポみたいなもん)を手助けしてみなに好かれる。顔を変化させることができる旅の似顔絵描きと道連れになる。壁抜けのできる男に出会って、その超能力に感心する。大蛇のいる街に滞在する。立ち寄った街で奴隷狩りに遭ってしまい、銀鉱に閉じ込められるが学才のおかげで鉱山の首領に気に入られ10年を過ごす。その間に随分と信用されたので、ようやく鉱山を脱出し、船で南方大陸へと渡る。ようやっと宇宙船の遺跡へ到着したラゴスさん。どうやらこの宇宙船でこの星へやってきたラゴスさんたちの先祖たちはとってもすぐれた科学力を持っていたが、この星ではその科学力を活かせる地盤がなかったためその技術を失い、そのかわりに今ラゴスさんたちがもっているテレポだの超能力だのが開花したという流れらしい。そして彼らの技術や歴史は書物としてそこの村に残っているそうだ。ラゴスさんは書物を読みふける。得た知識を現地の人たちに流しているうちに村は王国へと発展し、ラゴスさんは王として扱われるようになる。流すとは言っても、科学技術が人々の生活感情遊離した社会は破滅への道をたどることは理解していたので、適度な流し方を心がけるラゴスさんである。あっという間に十五年も経ち、彼は故郷へ戻ることにする。帰ってる最中に奴隷商人にとっ捕まる。ただしマヌケな商人は、ラゴスさんの故郷である北方で彼を売ろうとしたため、ラゴスさんの親類の激怒をかい吊るされることとなり、ラゴスさんは帰郷を果たす。得た知識をはたまた故郷で適度に流布させるラゴスさん。ここでも尊ばれ敬われるが、もう彼は悟っていた。自分は故郷へ帰郷したのではなく、人生という旅の間にちょっと寄ったに過ぎなかったのだと。彼は人も棲まぬ極北の地へと旅立っていくのだった。



とまあ、とっても好青年の穏やかなラゴスさんが、ゆく先々で理性的な振る舞いをし、女性たちにモッテモテとなる旅路を眺めるお話だった。さらに踏み込んでみると、そのラゴスさんの旅を通してこのファンタジックな世界を描くのがこの物語の芯だと思っていいんじゃないかな。ラゴスさんはマジでまったく人間性にも振る舞いにも問題がない。人生を通して悩まされる問題もない。それゆえ、主人公の問題にいちいち読者は煩わされず、純粋に彼のいる世界を鑑賞できる構成ってわけだ。加えて言うなら彼の出会う連中も基本的に善良で、たまにワルい奴もいるけどラゴスさん(と読者たる俺ら)にとって極めて一過性の登場人物で、まるで煩わされない。ていうか善良な連中も一過性。人間関係がまったく残らない。気持ちいい。世界の鑑賞に集中できる。カミュの『異邦人』しかり、西尾維新の『悲鳴伝』しかり、やっぱ俺はつねに理性的で人間らしい奴が主人公の話が好きなんだろう。


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