Alfons Muchaってのは俺が一番好きな画家で、俺の絵はかれの影響をバリバリ受けまくっているし俺の絵を観た人はたいてい「ミュシャとか好き?」とか訊いてくる。それがちょっと悔しくもあり、嬉しくもあり。先日仙台でミュシャ展をやってたんで行ってきた。今回はミュシャの研究について、かれの生涯を交えつつまとめてみる。


全体的な傾向。
ミュシャは生涯に渡り民族性・祖国愛というものに重きをおいていた。作品の多くに自民族の雰囲気を取り入れたり、人物に民族衣装を着せたり、そんな感じだ。さらに彼はドイツ・フランス・アメリカと活動したが、行く先々でスラヴ協会を結成し、スラヴ民族の統一を志した。これが物理的なものか、精神的なものかはわからんが。この傾向には当時の時代背景からの影響も濃そう。この時代のチェコはドイツの侵略を受けたりして言語と文化の弾圧を受けていただろうしな。愛国運動が活発化しやすい環境であったと思う。そんなわけで上に書いたとおり彼の作品にはスラヴを象徴するアトリビュートが多く出てくるんで、芸術作品を「シンボル」と考えている俺には非常に参考になる。いやあミュシャさんマジすげえよ。

20~30歳らへん。
裁判所の書記をやる、プラハの美術アカデミーに落っこちる、舞台背景画家の助手になって工房で働く、伯爵城の装飾をやる、ミュンヘンの美術アカデミーに入学する、パリのアカデミーに入学する、挿絵画家になる、など。いやーウデで食ってる感じだなー格好いいぜ。

35~40歳らへん。
偶然請け負った芝居『ジスモンダ』のポスターを主演女優がヤバいくらい気に入り、ミュシャのポスター画家としての人生がヤバいくらい劇的にスタート。この時期ヨーロッパじゃアール・ヌーヴォー(new art)が流行っており、「芸術を日常生活にも」という思想のもと、印刷技術の発展もあり、ポスターというジャンルが黄金時代を迎える。しかも1890年くらいの露仏同盟以来パリじゃスラヴ的なものへの関心が鰻昇ってたもんだから、上述の通りスラヴ的な雰囲気を取り入れたミュシャの作品は大流行であった。彼はポスター制作から、一般大衆が住居を飾るための装飾パネルも制作した。「私は芸術のための芸術を創るよりも、大衆のための絵の製作者でありたい」という言葉が素晴らしい。俺は実用的なものが好きなんで、実用(住居の装飾・商品の宣伝)のための絵の制作ってのは畏れながらシンパシーを感じる。

40歳~らへん。
パリ万博。かれはパリ万博でボスニア・ヘルツェゴヴィナ館の装飾をオーストリア政府に任せられる。上述の通りスラヴ民族と自国を愛しているミュシャは、スラヴ民族のための仕事ができることを喜ぶ一方、オーストリアの植民地支配に苦しみ万博で独立したスペースさえない祖国を差し置き、帝国の代表としてプロジェクトに参加するという矛盾に苦しむ。万博の装飾自体は盛況を博したものの、かれは祖国とスラヴの同胞のためにガンバる決意を新たにする。その決意通り、祖国をめぐる問題と向き合い、今後の作品にはしばしば思想的な背景色が濃ゆくなる。自分たちがどういった歴史を歩み、どう結束してゆけば良いか、みたいなことだ。こういった実用的な(メッセージを文章ではない形で伝えるための)絵ってのも素晴らしい。いや、そんなこと言い出したら実用的じゃない絵なんてないんだけども! ちゃんと明確な目的があって、それに沿って意識的に制作されたってところが好きなんです緑さんは。

てなわけで冒頭で提示したミュシャさんの研究というのは
1. ステキな装飾技巧の洗練
2. スラヴ民族統一の理論構築
3. 1と2を融合させ、メッセージとしての作品制作
って感じだろうか。

ぶっちゃけると、パリ万博の件では歴史的知識がないんで分かるような分かんないような感じがしている。そこらへん時期を描いた本とかあったら読みたいなあ。なんかありませんかね?


展示会の雑感を適当に。
構成は分かりやすかった。前からミュシャさんの歴史については知っていたが、わりかしいい感じにまとめられていて今回のまとめを書く気にもなった。桝太一さんの音声ガイドも理解の助けになった。ただ最近は声優の神谷浩史さんブームなんで「神谷さんの方が滑舌いいな」とか思ってた。
展示会の出口が二階で、そこに展示会のカタログがあるのはいい。だが一階のグッズストアに内容のさらに充実したカタログが置いてあるのはどうなんだ。上にも置いとけや。二階のほう買っちまったじゃねーか。ただ今回の展示会で初見だった、エラい気に入った絵が一階のヤツには載ってなかったんで、結局展示会のカタログのほうだけ購入した。




真ん中のが展示会のカタログ。このカタログにはひとつでかい不満があって、『スラヴ叙事詩』が全部載ってねえ。一階のカタログには全部載ってたんだがなあ。分厚い冊子なんでさすがにふたつとも買う気にはなれなかった。
ともかく満足。『スラヴ叙事詩』のカタログは、いつかプラハに行ってナマを観てから買おう。