なんていうか一読しただけだと何とも判じがたい話だった。というのも、だいたい読書感想文書くときは「全然共感できねえ」「これすげえわかるわ」の二通りで方針付けるんだけど、『人間失格』の主人公は、根本的な部分……人間恐怖と、人の立てた波に乗って生きる態度……は俺とそっくりで共感できるんだが、表面上の性格的な部分……付和雷同な暮らしに抵抗がない様や、プライドの低い感じ……は全然似ていない。
とりあえずサマリーと気に入った部分だけ書く。


人が怒るのが怖い小さな葉蔵くんは、争いを避け、怒りを避けて暮らすべく滑稽家の仮面をかぶって過ごす。その道化っぷりは中々のもので、人気を博す。ただ仮面の内側では、つねに人を警戒して恐れている。
家を出ると、生活能力の欠如と退廃的な性格から共産主義という非合法活動に身を窶し、生活は荒れ、末には女と心中未遂をする。その件で実家からは落胆され親戚の家に隔離され非生産的な日々を過ごす。
あるとき子をもつ新聞記者のシヅ子さんと懇ろになり、ツテで漫画を書いて暮らすことになる。でも酒に溺れて生活はぼろぼろ。そんな自分と対照的に善人で幸せそうな母子を見て、自分はこの幸福な人たちを滅茶苦茶にするのだと悟り、逃げ出す。
逃げ出した先で、人を疑うことを知らない純粋なヨシ子さんと出会い、その輝かしいヴァジニティにあてられて結婚する。信頼の天才である妻との生活はまあまあよかったけれども、あるとき彼女は強姦されてしまう。にも関わらず怒りを覚えることもできない葉蔵くんはただおろおろするばかり。その後また自殺未遂、喀血、モルヒネ中毒と順調に腐っていった彼は精神病院にブチ込まれる。
ここまで至った葉蔵くん自身の感想は、「幸福も不幸もない」「ただ、いっさいは過ぎていく」であった。


(人との)争いごとが怖くて、流されるまま、あるいは逃げまくって生きた葉蔵くんの人生の話だった。戦わないことに孤軍奮闘してガンバってるサマには好感をもっていたのに、ボロボロになってしまって気の毒だった。葉蔵くんもこう言っている、「神に問う。無抵抗は罪なりや?」そりゃそう思ってしまうよなあ、「俺なんにもしてないじゃん!」と。でもまあ手入れをしないと機械は老朽化するし、使わない筋肉は退化するし、食べ物も放っといたら腐るのだよな。そういう行為は生産的行為だ。葉蔵くんは生産的行為をしなかった。それが、彼が精神病院に入れられたときに思った「人間、失格。」って言葉の意味だと思う。

とはいえこの人生は人間恐怖と向き合う生き方の、ひとつの答えだと思う。プライドを捨てて人間に完全に降伏すること。ちょっと羨ましさを感じざるをえない。プライドを捨てられたら、戦わないことの選択も逃げることの選択もこんなに簡単にできるんだ、と思った。ただしその生き方は、「……だめね、人間も、ああなっては、もう駄目ね」と言われてしまうような生き方なのよな。