その日は友達のバースデーで、ウチで遊ぼうということになっていた。いっしょに料理作ったり、映画観たり、である。そこで観たうちの一本が園子温監督の『ヒミズ』。友達が「いっしょに観たい!」と言うので借りてきたのであるが、このハナシ、すげえ暗い。今日、誕生日だよね!?
サマリと感想をかく。


主人公の住田くんは普通の人生を志す中学生。家業のちっさい貸しボート屋を継ぎ、山もない谷もない「今のままの」平々凡々な生活を画策する男の子である。が、この男、主張と裏腹にどうみても普通ではない生活環境におかれている。
別居の実父はたびたび金の無心に訪ねてきては住田くんに暴力をふるう。実母は別の男と出ていく。普段つるんでいるのはボート屋のそばを根城にするホームレスたち。同級生の友達はゼロ。実父のつくった借金のせいで、借金取りが訪ねてきてはボコボコにされる。さらにはウッザいストーカーにつきまとわれる。それでも住田くんは、ひたむきに普通の人生を目指してがんばって生きている…。(今日、誕生日だよね!?)
しかし、ある日とうとうブチ切れ、親父をブチ殺してしまう。「クソがァー! あんなにまじめにがんばってたのに到底普通じゃ済まないことしちまったァー!」とさらにキレる住田くん。自暴自棄にはしり街を徘徊するようになってしまった住田くんであるが、そこに手を差し伸べたのがホームレスの友人たち、そしてウッザいストーカーの子である。
「あなたはいまちょっとした病気なんだ」。今の状況はちょっとうまくいってないだけで、やり直せるし、絶望することはない、と教えてくれる。
希望を見出した住田くんは、とりあえず自首から人生やり直すことにする。めでたし。


住田くんが超カッコイイ。メインの感想はこれである。最初の印象はクッソダウナーながきんちょであったが、上述の借金取りのタコ殴りに遭ってるとき発した言葉(そして演技)で見なおした。超見なおした。細部は違うだろうけどだいたい以下のような感じ。
「俺はたまたまクズのオスとメスの間に生まれただけだ! 俺は違う! 俺はお前らのようなクズとは違うんだ! 俺は立派な大人になるんだ!」
ズキューン!! である。俺は昔から、自分の目標をちゃんと言える人間が大好きなのだ。そういう奴には手を貸してやりたくなる。何かしてやりたくなる。話が逸れたが、こんな子が主人公だったので楽しく観れた。
さらに物語終盤、ずっとツッパっていた住田くんが他人にへりくだるシーンがある。へりくだるというのはちょっと言葉が違うかもしれんが、他人の言葉を自分のなかに受け入れ、いまの自分があるのは相手のおかげだ、と他人の存在を自分のなかに高く位置づける、そんなシーンがある。俺も似たような経験があるのでシンパシーを感じた。いや、無駄にプライドが高い奴にとってこういうのはマジでむつかしいのだ。ふんぎりがつかないのだ。そのむつかしさを、この映画はうまく表現できていると思った。

そんなわけで住田くんは多難ながらも希望あるスタートを切れたと言ってよいが、心配なのは周囲の連中だ。住田くんは自分しか見えていない男だったから気付いていないが、自分を助けてくれた友人やストーカーちゃんもかなりヤバイ生活環境にいる。こいつらに関しては「この先もきっとだいじょうぶ」というような描かれ方をしておらず(この先きっとヤバイという描かれ方もしていないが)、個人的に心配だ。とくにストーカーちゃんはキツくないか? 実家の不穏な空気からの逃避先として、ストーカーちゃんは住田くんを扱っていたはずだ。その住田くんが塀の中に入っちゃったらキツくないか? 今後ちと落ち着いた住田くんが、ストーカーちゃんのそんな実情に気付いて、「今度は俺が」と支えあっていけたらいいな、と思う。


ところでストーカーちゃんだが、ついちゃんが好きそうなキャラクターだ。暇で気が向いたときにでもどうぞ。


  1. まぁあたし、ストーカーもどきだしね。

  2. いっしょに観た奴によると、ストーカーちゃんの女優結構有名らしいぞ。
    一方俺は、超チョイ役で出てた吉高由里子さんに釘付けだったが。