概要

親愛なるルームメイトが貸してくれたので読んだ。

サマリと感想を書く。

 

サマリ

安藤父が、普段どおり、大学で講義をしているところに……娘の訃報が入る。

……とここで小説的には、安藤父子の関係性が紹介される。安藤母は娘の出産の影響で亡くなった。安藤父はショックだったが、娘のおかげで人生を歩めていた。

安藤娘は学校で落下死した。父は知らないことだが、クラスメートの木場咲 (親分) と新海真帆 (子分) のクズコンビがその事件を引き起こしたのだ。クズコンビは安藤娘を言葉で傷つけたり、母親の形見のお財布を盗んで捨てたりしていたのだ。クズコンビは安藤娘を無理矢理ベランダに立たせ、そのときバランスを崩した娘は落下死した。

クズコンビ親分は、安藤娘が日記でも残していやいないかと気が気でない。もし虐められていたとでも書いていたら、私の人生に傷がつく (クズの発想)。果たして安藤娘の日記は存在した。そこにはクズコンビに受けていた被害がバッチリ記述されていた。安藤父は加害者への殺意を抱くが、親や弟に迷惑をかけるわけにはいかない。しかし日記を公表したところで、未成年の彼女らはどうせろくな罰も受けない。どうすればこいつらは反省するのだろうかと思い悩む (菩薩の発想)。一方クズコンビ親分は、安藤父にどう日記の公表を思いとどまらせるか思い悩む (クズの発想)。

クズコンビをおびき出すため、安藤父は日記の在り処と、家の鍵の在り処をわざと漏らす。クズコンビは日記を処分するため、まんまとおびき出される。クズコンビ子分は日記を読み、罪悪感に苛まれ処分を厭う。それを見たクズコンビ親分は激怒……。などと仲間割れしているところに安藤父登場。日記の公表を匂わせクズコンビ親分を挑発する。プッツンときたクズコンビ親分は安藤父を刺して突き落とす……が、それこそ安藤父の狙いだった。これで木場咲は罰を受ける。今度こそ自分で手を下したのだから。

 

感想

最近、心がけている読書法……なんて大層なものではないけれども……がある。小説を、あくまで物語、起承転結のある物語作品として見ることだ。もちろん親愛なるルームメイトの影響だ。今回は、共感できる登場人物がいないこともあって、その読書法がそこそこうまくやれた気がする。

  • 娘の訃報を聞いて病院へ飛んでいく安藤父のシーンのあとに、 “このふたりがどんなにか良い関係だったか” を語るシーンを続けることで、父の辛い気持ちを読者にうまく伝える構成になっているのだなと感じた。
  • 木場咲 (クズコンビ親分) の考え方は、全体的にはシリアルキラーのはすみん ((2017-02-17)貴志祐介『悪の教典』) に近い。目的がハッキリしていて、ブレない点が好印象。ただ、能力が低い。能力がとても低いはすみんだ、という印象を持った。実力の程を知らないところや、自分の計画に他人を組み込む点が弱い。
  • 新海真帆 (クズコンビ子分) は劣等感の塊で、見目が良い木場咲を崇拝し、認められることが行動規範である。とはいえ自律心のない有象無象なので、目的のためにガンバる気概はない。
  • 新海真帆が計画の半ばで日和ったとき、木場咲は “あんたはそれでよくても私はどうなるの” と怒る。そう、そのシチュエーションにおいて、 “自分の明るいキャリア” という守るべきものがある木場咲は、立場が弱いのだ。新海真帆には守るべきものがないので簡単に諦められる。動機の強さが違うメンバーを計画に組み込んではいけない。
  • 木場咲の独善的な性格は鮮烈ではあった。しかし彼女は、大人である安藤父に、普通に力負けしたようなエンディングを迎えたな。あまりにも妥当な結果で、こう、物語の展開としては残念な思いがあった。
  • 本作は、章によって語り部が安藤父、安藤娘、木場咲、新海真帆と移り変わっていく。各々の背景を知ることで、読み手である自分の視点の置き場が変わることを楽しめた。別の言い方をするなら、応援するキャラがころころ変わるのを楽しめたってことだ。
  • ただし新海真帆、こいつは別だ。安藤娘に対する加害のほとんどはこいつが立案したものだ。木場咲に認められるため、親分を楽しませるため、被害を大きくした。虐められる側にまわるのが嫌で、虐めてきたくせに、安藤娘の日記を見ると、同情して涙する。被害を受けたものがどれくらい深く傷つくのかは、同じような立場に身をおいた者しかわからないのに、それでもわかることができない。想像力を持たない人間だ。自分の想像力のなさを棚に上げて、堂々と表を歩き回る。新海真帆が本作トップのクズだとぼくは思った。
  • 本作のメイン・ヒロインである小沢早苗さんについては、とっても素敵な女性であることは言うまでもない。彼女のおかげで安藤父は立ち直れた。が、物語の展開について機能をすることはないので、サマリに出すことはできなかったな。
  • 物語のはじめ、安藤父からしてみれば、一体何が娘を死に追いやったのか分からない。クラスメートに直接殺されたのか、クラスメートに自殺に追い込まれたのか、はたまた安藤父の接し方に問題があって、それが自殺に追い込んだのか……。娘を死に追いやった何かがあることは確かで、それは罪深いことに違いないが、それが何か確定していない。そのことを余白と呼んでいるんかな。物語のおわり、自らの調査と、新海真帆からの手紙によって、娘の死の経緯がはっきりと分かる。そこでようやく余白がなくなるのだろう。

クズな登場人物を見たとき、ただ不快に思うのではなくて、物語という装置のなかでどう機能するんだろう……と思うことができた。ルームメイトを見習って、そう考えられるように心がけてきた。その読書法を志しはじめたころは、ぼくには不可能だと思っていたが、実践を繰り返すと、目指すところに近づけるものだ。